1 宇宙船の驚くべき内部構造

クロード・ポエールはトウールーズ国立宇宙科学研究所(CNES)※1 の技師であり、探査ロケット部の部長をしていた。

彼は以前から研究所のコンピューターにUFOの目撃情報を大量に入力しており、精力的にデータを統計処理したり、照合したりしていた。

長いことこの趣味に夢中になっているうちに、同様の問題に関心を抱くさまざまな国の人々とも接触するようになっていた。

その中に、作家兼ジャーナリストでバルセロナ郊外に住むアントニオ・リベラという人物がいた。 ポエールはこの男から、奇妙な手紙の山のコピーをもらったのである。

手紙は完璧なスペイン語でタイプされており、この男以外にも同様な手紙を受け取ったスペイン人は、あと数名いると言う。

ポエールは、ある日、モーリスという友人を介して、わたしにもコピーの一部を見せてくれた。

わたしはそれまでにも、接触があったという人からの資料には何度か目を通したことがあるが、そういう人たちは往々にしてテレパシーの衝動に動かされていたり、

「自動筆記」をしたり、霊媒みたいなしゃべりかたをしたりするものだ。助言者の指導よろしきを得て「超越的」啓示を受けたのだと言い張る人もいる。

接触者がこの種の体験をもとにして、新興の宗派を興すことも珍しくない。

この種の文献は、いずれにしても思い込みが激しすぎて、ただただ閉口するばかりのものが大半であった。

ところがこの手紙では、書き手が冒頭から地球外知的生命を自称し、地球からほぼ一五光年のところにある乙女座の中のウンモという惑星から来たのだと言っている。

リベラのところに来たものと同じような内容の手紙は、一九六二年以来、何人ものスペイン人のところにふつうの郵便物として配達されているそうなのだ。

わたしはその手紙にざっと目を通してみた。ちょうど二枚の皿を張り合わせたような、円盤型の奇妙な機械の種々の部品についての説明があった。

それにしても驚いたのは、手紙の調子がマトラ社※2やダッソー社の技術説明書そっくりだということだ。

当時わたしはマルセイユ天文台勤務だったけれど、六〇年代にはパリ国立高等航空宇宙学校(現在はトウールーズに移転)で航空工学のエンジニアとしての勉強をしていたことが

あったので、この種の技術的問題には敏感だったのである。

ユミットから送られてきた手紙の一例

上/12進法に関する説明。送られてくる手紙のタイブ原稿とそのなかに描かれているイラスト類はすべて、ある地球人の協力を得てなされているという。

左下/手紙の封筒

右下/ユミットの署名と、送り主の親指で押された惑星ウンモのマークの押印。 この押印色は、受取人の国籍により異なる。

何よりもわたしの目を引いたのは、素材の抵抗に対するユニークな解決法であった。ボディは今の言葉で言えば複合材料を用いたものであった。

内部構造は極めて複雑で、言わば脈管が形成されているのであった。この構造体には一ミリ四方あたり400もの部品が装備されている箇所もあるそうだ。

機体がスピードを上げるとき、中空の皮膜にはある種の応力がかかることになるが、正確に言えば加速は持続的にではなく、数段階に分けて行われるとある。

なるほど、非論理的なところはどこにもない。航空宇宙工学の専門家なら、持続的な加速よりも急加速を段階的に行ったほうが人間には負担が少ないことくらいは知つている。

だがこのような構造体に衝撃が加わると、やっかいな振動が生じる恐れもある。機械部分全体が共振を起こすかもしれない。振動が増幅されると破裂する危険もある。

昔からよく知られているのは、兵隊が大勢で吊り橋を渡るときは、決して足並みをそろえてはいけない、という話だ。

万一足並みをそろえたりしたら、そのリズムが橋の構造そのものと共振を起こし、橋が崩れ落ちてしまう危険があるのだ。

UFOのボディにしても、急加速時に共振を始めるようなことがあれば、やはり自壊する恐れがある。この技術説明書にはその場合の解決法も示されていた。

問題のボディには液化しやすい金属を含むおびただしい数の脆管や、口径の細いパイプが、網目状に張り巡らされており、それがすべて機内のⅩAMOOという詩的な名前の

コンピューターに接続されているのである。

このコンピューターが、機体の一点に集中しかねないような機械的波動を検知すると、ただちに極微なシステムを作動させて、極微パイプ中の流体を液化したり固体化したりする。

確かにこうすれば共振周波数を局部的に変えることが可能となる。

なんと巧妙なやり方だろう。わたしは今日でもまだこの解決が実現可能だとは思っていないが、未来にとって重要な課題になることは、十分承知している。

ユミット宇宙船の複雑な「外皮」構造

この「外皮」構造には、1ミリ四方あたり400個までの部品を収納することが可能である。上層部には「狼のワナ」のように円くへこんだ側壁イオン化装置がはっきりと見てとれる。

時空構造の機械的パラメータは、複雑な脈管システムによってコントロールされている。

このシステムのおかげで加速時には素材の音響インピーダンスの局部的数値が変化し、機体を損傷するような共振現象を完全に防ぐことができる。

情報システムには3種類ある。そのうちのひとつは光ファイバーによるものだが、どれもみな周囲のパルス磁気の干渉を受けないようになっている。

この外皮には“自己修復力〃があり、動物の外皮のような機能を備えている。すなわち神経組織、脈管の構築、多数のセンサー、表皮、真皮、血管拡張・収縮などである。

外側の層には、惑星問の航行の際に、相対速度で不意に出現する微細隕石を、静電気によって払い除けるための装備がある。

また、宇宙船が惑星から飛び去るときには、短時間で側壁が暖められ、微生物は破壊されてしまう

わたしが読みえたものは全部で二〇〇〇通にもなろうか。数ある手紙の一部、もしくは全文をここに掲載することも、もちろんできないわけではない。

だがそれでは本書は大部になりすぎて、とても読みづらくなってしまう。やはりこれからはこの文献の概要を紹介するに止めよう。

わたしの印象はあくまで主観的なものだが、それがきっかけで読者が興味をもたれ、手間暇惜しまずに原文に当たってみようという気になれば、膨大な手紙の入手については

なんの問題もないはずだ。

アントニオ・リベラが書いたものは、フランス語で『ウンモ、E.T.の言葉』※3のタイトルで一九八四年にロッシエ社から出版されている。

ここでわたしの言及している文献は、この本の一二五~一七三ページにも掲載されているものである。

リベラの本は当時は全く売れず、ほとんど世に知られることもなかったが、それは単にとても読めるような文章ではなかったせいにすぎない。

科学者でもない読者は、技術的な説明にはすぐに蝕きてしまう。科学者なら話は簡単で、そもそもこの種の本に目を通したりしないものなのだ。

ちなみにわたしは科学者の立場でこの本を丹念に読んでみた。なるほど、これで版数ページも行かないうちに嫌気がさしてくるのも無理はない。

それでもわたし自身はなんとか、この鈍重なものの言い方や、いつまでも堂々巡りをしながらOAAWoLEAとかUEWAとかⅩEEとかIBOZO-UUとかⅩANWAABUASII DIIOとかの

奇妙奇天烈な言葉※4や、さまざまな秘密の文字がたくさん現れる、このおおげさなものの言い方にも慣れてきた。

想像を絶するほどチンプンカンプンな言葉には、それでも意味のある箇所がいくつかあるような気がした。

たとえばこの機体のドーナツ型居住空間に言及しているところだ。乗員はシートに座るのではなくて、テイクサントロピックという特殊な液体の中を浮遊することになっている。

そして機体が加速しないときは、液体はドーナツ型居住空間の外部に排出されるのだ。

どこかの惑星に着陸している間は、人間の姿形をした乗員たちはしっかり二本の脚で歩き回る。

宇宙を航行するときは居住空間のなかを自由に浮遊しているが、巡航モードのときは機体が主軸を中心に旋回して遠心力を働かせ、人工的に軽い重力を生み出すのである。

ドーナツ型をもっと小さくすると、

スタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』によって不朽のものとされた、地球と月の間に浮かぶ宇宙中継ステーションに似たものになる。

これ程小さな半径のものが回転すれば、昔ながらの宇宙病がすぐさま発生するが、彼らの内耳には予防のためのインプラントが目立たないように植えこまれているのだそうだ。

さて、テイクサントロビックとは何のことだろう。百科事典で調べてみると、振動を受けると固体から急速に液体に変化する物質だということが分かる。

たとえば水と砂、もしくは泥との混合物であるクイックサンドにも、ふだんはいかにも硬そうだが同じような作用がある。

誰かが不注意にもこの罠のある地面を歩いたりすると、その振動で地面全体が一瞬のうちに液状化してしまうのだ。当人は哀れにも首のところまで一気に沈んでしまう。

すると地面は再び固まる、というか固体に近い状態に戻るのである。そんなところは大変危険なのだ。

わたしは一二歳の頃、ブルターニュ地方のランデヴネックというところの河口で、同じようなことを経験したことがある。

砂地を走っているといきなりばくりとやられ、肩まで埋まってしまったのである。幸運にもわたしはその少し前に切り取るつもりであった小枝を手にしていた。

ボーイスカウトで、みんなと一緒に湖畔のテント村を設営中だったのだ。

わたしは枝にしがみついて、やっとの思いで黒々とした泥の中からはい上がったが、今思い返してもぞっとする。

この手紙にも、テイクサントロビーに関する記述があった。

宇宙船の乗員が動き回る居住空間にはこの種の泥が充填されており、電界効果によって一瞬のうちに液体から固体へと変化するのである。

こんな物質がほんとうに存在するのかどうか、今の段階では定かではない。固体物理学者に尋ねてみる必要があろう。

ただわたしにはまったく不可能だとは思われない。手紙によればドーナツ型の内部は加速時には固体状になり、速度が一定に保たれている間は液状になるのだそうだ。

だから飛行機のコックピットのようなシートは必要ない。

加速が働く千分の一秒ほどは、パイロットは岩の中の化石みたいに締め付けられる。次の千分の一秒、もしくは数千分の一秒は、また自由に動けるといったことが繰り返されるのだ。手紙の書き手は、この装置を使っても粘土が少し上がったくらいの感じしかしない、と言っている。

加速時にはパイロットは水の中を動き回るというよりは、ホイップした生クリームの中に沈みこんだような感覚を味わうはずである。

それにこのシステムを活用すれば、われわれが飛行機やロケットで体験するよりも、もっとずっと急激な加速に耐えることができるのだ。

肺と胃に含まれるガスはべつとしても、体内の多くの器官はほぼ水と同じ密度の液体に浸される。体の器官の中で最も壊れやすい脳は、頭部=脊髄液の中に浮かぶ恰好になる。

ボクシングの選手※5がパンチを食らってもそうやすやすとKOにならないのもそのためなのだ。

人間の体をそっくりそのまま液体に漬けてしまうのは、圧力を再配分するのには理想的なのだが、わたしはそのような考えがどこかに引用されたり、ましては実験されたりしている

のをいまだかつて見たことがない。おそらくこの流体が積載不能なほどの重量を持つためであろう。

魚やタコのように浮袋を持つ生物を、水という自然環境の中で加速した場合、どの程度まで「G」に耐えうるものか、実験するのも面白いだろう。

というわけで宇宙船の居住空間は、二枚の皿を重ね合わせた形をした中空のボディの内部にある。機体が地上に停止していたり宇宙を巡航していたりするときは、このドーナツ

型がボディと一体化することになる。加速時には磁力によるサスペンションが働く。これもすっきりした解決法だ。

ドーナツ型の外壁は超伝導物質でできているのである。当然ながら機体の周りには、数十テラス※6の磁場が形成されるが、この磁場が一定していようと変動していようと、

超伝導の特性としてよく知られているように、外壁の内側にまで侵入することはない。このような方式にはいくつかの利点がある。

まず第一に、磁場がどれほど変動しても、乗員には生理的影響が及ばないようにできることである。

第二には、生物学的要請に応じた加速プログラムの採用によって、乗員に実際にかかる加速時の負担をフルにコントロールできることである。

わたしにはこれが全体としては非常に興味深いものに思われた。

現段階では、この文献はしっかりした科学技術の素養がある人間の書いた、良質のSF小説だと考えることもできよう。

他にもリチウムの出滴による外壁の冷却とか、無数の情報チャンネルを援用したコントロールシステムの構築とか、周囲の大気をコントロールし、分析するための内壁システムなども

紹介してよいのだが、専門家でない読者を相手にして、当のわたしですら確かめようのない技術的考証を並べ立てても、うんざりさせてしまうだけだと思う。

この手紙の山に数週間かけて取り組んでみたが、わたしにも未だに分からないことが多々ある。

一体誰が、何の目的でこんなものを書いたのだろう? どうしてこれが、わたしの知る限りでは本格的な科学知識もなく、ましてや活用なぞ及びもつかないような人たちのところへ

送りつけられたのだろうか? まるで無意味なことだと思うのだが…・・・。

わたしはもっと詳しいことが知りたくてトウールーズに行き、国立宇宙科学研究所(CNES)のクロード・ポエールに会ってみることにした。

彼はいやな顔ひとつせず、スペイン人との接触を通じて収集していた手紙の束をそっくりそのまま手渡してくれた。文献は数百ページにも及ぶものであった。

わたしはさらに詳しいことを知るために、スペインにも何度か足を運んだ。現地での接触者たちのネットワークは、わたしをそれなりに受け入れ、話をしてくれた。

なかでもアントニオ・リベラは種々の手紙を誰よりも惜しげもなくコピーしてくれた。彼の行為は熟慮の末のものだった。

この誇り高き人物は、自分以外のものに操作されることを潔しとはしなかったのだ。

不思議な手紙の書き手から秘密保持の要請を受けていた他の人たちは、多かれ少なかれそれに従う傾向があった。

書き手の側が厳しい命令を下したようなことはなく、ただ受取人が自分たちの意向を汲んでくれなければ、手紙をストップするというだけであった。

そういうわけでわれらが友人リベラのほうは、ユミットからはザルみたいにやすやすと秘密を漏らす男と見なされ、かなり早い時期から貴重な便りが途絶えてしまったのである。

※1 通信衛星の打ち上げやアリアン計画などの宇宙開発プログラムを設定する研究機関。アメリカのNASAに相当するような機関と考えてよい。

序文に出てくるSEPRAもこの研究所の付属組織である。

※2 フランスを代表する重機械メーカー0マトラ社はミサイルを中心とした軍需部門に強く、ダッソー社は主として航空機を生産している。

※3 『Ummo,le langage extra-terrestres』

※4 アントニオ・リベラはこの種の音素が四〇〇以上もあることを突き止めたが、これに対応する数の文字も存在するはずである。

わたしとしては言語学者か暗号の専門家に、この比較的重要な材料を分析してもらいたかつた。

わたしにはアプローチしようにも、まったく方法がないので、実際には何もできはしなかったのである。

※5 ボクシングでのKOの形は、パンチが正面から当たった場合ではなく、頭部が急速に回転する場合に多い。

脳にはそれ自体の慣性があり、他の物体と同じように、角度のついた急加速には耐えられないのである。

側面からあごの先に、いわゆるクイックパンチが当たると、頭蓋骨は急回転する傾向がある。そのとき脳は最大限の損傷を被り、意識が失われる。

脳と身体の他の部分を連絡する部位が深刻なダメージを受けると、死に至る可能性もある。

※6 磁場の強さ(磁束密度)の単位。