16 宇宙の構造と形而上学

科学者は今になって (やっと!太陽系以外の惑星系にも知的生命のいる可能性があることを認めはじめている。

(ジョルダーノ・ブルーノ※1はそのような考えのために火あぶりにされたのだが)

惑星であれば人間の姿形をした生命が最も機能的なのだから、一番現実性があると考えている人も中にはいる。

ちなみにユミットは、惑星に進化した生命が現れる条件としての物理的パラメータ、つまり表面温度、重力、大気組成、磁力、熱放射率などの「変動幅」を正確に指示している。

その数字は地球の科学者が想定するものと合致しているとだけは言っておこう。

生命は、長期的に存続している恒星の周りを回っている惑星にしか、固有のリズムで発達するようなことはない。

短期間しか存在せず、最終的には爆発してしまうような質量の大きい星ではだめなのだ。

ユミットはそういう星は周辺に生命を宿すためにあるのではなく、元素合成によりこの生命を爆発させる要素をつくることが目的なのだとしている。

それは最終的には超新星の大異変になって、言わば宇宙の胞子となって散乱するのである。

人が違えば仕事も違うというわけで、「われわれは必要な原料を作るから、生命のほうは君らがやってくれ」というところであろうか。

われわれの銀河系星雲には、きわめて年代の古い星が多数ある。球状星団※2の中には銀河系と同じ時期に形成されたと推測されるものもある。

それらの星団の質量は僅かなもので、少しずつ水素を燃焼させているだけなのだが、この倹約ぶりのおかげで「水素を一どきに燃焼させてしまう」大質量の星とは逆に、

長い寿命が保証されているのである。

こうした条件下では、星々の歴史はずいぶんと時間的にズレたものになる。仮に太陽と同じ質量の星が二つあったとする。

寿命はどちらも同じだが、二つの星が同じ日に、同じ年に、あるいは同じ世紀にすら誕生した可能性はほとんどない。

なにしろ10万年ほどの時間の隔りですら、宇宙現象としてはほんのわずかな期間でしかないのである。ちなみにわれわれの銀河系星雲にしても、二億年もかけて自転しているのだ。

したがって、たとえこの二つの星が知性体の発達した可能性のある惑星群に囲まれており、惑星と惑星同士の距離が短いとしても、これら二つの惑星の進化の時間のズレ数百万年、

いやひょっとしたら数千万年もひらいてしまう可能性すら大いにある。

ところがユミットの手紙によれば、地球と惑星ワンモという二つの惑星間の距離はおよそ一五光年ほどでしかないのである。

われわれの銀河系は直径一〇万光年もあるのだから、それに比べるとこの距離は極度に近い。

こんな条件下でユミットたちが自ら言明しているように、進化の時間的ズレがほんの数世紀しかない、などということがどうして起こりうるのだろうか?

惑星ワンモの太陽であるイウンマ星と地球の太陽は同じタイプの星ではないのだから、問題はさらに複雑になる。

イウンマ星の表面温度は4500度で、太陽の6000度よりも低い。イウンマは太陽よりも代謝が弱いのだから、星としてははるかに古いはずなのだ。

このような時間のズレこそは、たとえ技術的には宇宙旅行が可能であることを認めざるをえないとしても われわれの地球に少なくとも人間の姿をした地球外生命が到来する可能性は

ないと主張する人にとっての理論的根拠となるものだ。

とはいえこの地球上においてさえ、数万年単位の時間のズレが現に存在していることは認めねばならない。

ニュギニアのパプア族とアメリカ人の科学技術に関する知識の違いは、その程度のものなのだ。

その程度の期間にも人間の身体的特徴にはほとんど変化がなかったし、パプアの先住民とニューヨークの住人とでは遺伝的にも適合性は保たれている。

今後数千年を経ても、この間の事情は変わらないだろう。

われわれの科学技術がこのままのスピードで進歩していけば、3000年か4000年後にはどうなっているか、そんなことは想像すらできない。

それと同じ意味で原子炉などは、キリストの時代にパレスチナに住んでいたユダヤ人には、とうてい理解しがたい代物であろう。

現代の技術を他の時代に移植しょうとしても無駄である。

この問題への対処の仕方はいくつかある。

ーー第一のものは、地球外生命の到来なぞないのだと、断言してしまうことだ。

われわれはその日その日の偶然に身を任せつつ進化している。四次元の現実の中で、われわれの目の前に起こつていることがすべてなのだ。

「あの世」などというものはありえない。いわゆる超常現象も幻想にすぎない、などと言ってしまえば、それですべては解決する。

ーー第二のものは、宇宙時計のようなものがあって、それが進化をコントロールしているのだと考える立場を取ることだ。

ーー第三の立場は、われわれの知力をもってしてはとても想像できないような、非常に進化した知的生命が地球を訪れたが、彼らは必ずしも人間の姿をしているわけではなく、

ロボットに託しながら自分たちのメッセージを「理解可能」なものにしているのだという立場である。

ーー四番日のものは、膨大な数の偶然の要素が積み重なって、地球と惑星ウンモが非常に似通った進化を辿る惑星になったと考えることである。

この四番日のものは、ユミットが他にも自分たちと似たような進化の段階にある惑星が近くにいくつかあると言っている以上、一番根拠が薄弱な説である。

三番日の説については、じつはわれわれの地球でも実験動物に対しておとりを使った実験が行われている。 UFO研究家の多くが同調しているこの仮説を選択すれば、すべてが可能

となる。 人間モルモットを遺伝的文化的に操作することも、地球上でヒト化の過程を始動させることすらも可能となる。

しかもこれはSFによく出てくるテーマであり、数多くの宗派誕生のきっかけともなっている。

これほど進化の進んだ存在が、夢の中でわれわれと交流することはできるのだろうか?

夢占いは、たとえばユダヤ教の場合のように、地球での宗教思想体系のひとつの源泉となっている。

これらの存在とコミュニケーションを持つには媒介となる物や、偶像や、水晶球や「霊気に満ちた」霊場が必要となるのだろうか?

これらの偶像や場所や物を媒介としてこの進化の進んだ 「人間+n」を崇拝するのは、「カーゴ・カルト」※3信仰に類する現象である。

この場合の偶像は、一度はこの世を訪れたが、今は固有の世界に戻っている存在の、象徴的代替物にすぎない。

だが宗教的儀式もやはり象徴的媒体であり、形而上学としては現実性のあるトランス状態の実現を目指すものと考えられる。

あるいは儀式が引き起こす陶酔によって、精神が肉体に作用を及ぼすということなのかもしれない。

この領域においては決定的なことは何ひとつ断言できず、すべては単純無垢な信仰心にかかっているのである。

このような観点からすれば、ユミットの手紙が文化的宗教的工作を意図して作成された可能性もあり、いずれにしても文字どおりに受けとるべきものではないだろう。

これは友人の天文学者、ピエール・ゲランの見解でもある。

それでは最後に残る第二の仮説を検討してみよう。そしてまず、古い星の誕生をコントロールするというような現象がほんとうにあるのか、という問題から始めることにしよう。

科学者の答えは肯定的である。宇宙の年齢が数十万年で、その温度がまだ3000度以上の時期には、宇宙を構成する原子は高温のために完全にイオン化されている。

したがって自由電子※4が存在し、この電子がありとあらゆる種類の電磁放射、ことに光に対してきわめて鋭敏に反応する。

物理学者ならこれを、光子の平均自由行路が短いために、物質と放射が非常に強く結合している状態だと言うところだろう。

この種の状況は太陽の内部に見いだされる。そこでは光子がいったん吸収されて後に、途中の行路で出合った原子によって再度放射され、どのくらいか分からないがある程度の時間

をかけてそこから脱け出しているのである。

どの時期にも物質は重力不安定によって「凝塊」※5をつくる傾向がある。しかしこの物質を取り巻く放射が、それに抵抗するのである。

凝結しょうとする物質の影響を受けた放射は、非圧縮性の液体の様相を呈する。

宇宙の絶対温度が3000度以下になれば、物質は非イオン化する。自由電子はおとなしく原子の周囲を回りはじめ、宇宙は「透明」になる、つまり光子が何の障害もなく自由に移動し、

遠距離の天文観測が可能な状態になるのである。

デカップリング※6というものがある。

最初の凝塊が形成される時点で、トムリーという人がその質量を計算した結果、それは太陽の10万倍になった。これがヘラクレス星団のようないわゆる球状星団の質量である。

この最初の塊からどのようにして原始の星々が誕生したのだろうか?

この凝塊は、圧縮によって熱を発生する。階層的細分化によって星が形成されるためには、まずこの圧縮によるエネルギーを排除することが不可欠となる。これは難題である。

太陽の10万倍の質量の凝塊が圧縮すれば、とたんに温度が上昇し、再びイオン化現象が起こるのだ。

そうなれば光子のガスはこの塊に取りこまれるが、基本的には圧縮不能なので、状況はそれ以上進展することはない。

これは星雲誕生のひとつのシナリオとして考えられている。これらの原=星団は互いに結合を維持しつつ、星雲という名で呼ばれる凝塊の凝塊を生み出していく。

だがこの原=星雲中では、必ずしも星が形成されるとは限らない。 基本的宇宙放射※7とその放射圧力が、星の形成を抑制しているからである。

物理学者ならこういう言い方をするところだろう。「物理学では真空というものは存在せず、完璧な真空も『継ぎ合わせた』光子のガスにすぎないのだ」と。

現在のところ、恒星もしくは惑星間の真空の、およそ考えうる限り最も徹底したものは、じつは波長五ミリメートルの光子の蠣集である。

これは「絶対温度三度の黒体の温度※8」に相当している。ある意味ではこの光子が全体として「基本的な空間組織」を成している。

球状星団のプロトタイプが圧縮しょうとしても、この「光子の組織」 のざらつきに邪魔されることになる。

この空間のざらつきをどうしたら緩和することができるのだろうか?

それには宇宙の(本書のモデルに従えばゲージの)膨張もしくは進化によって宇宙放射の、空間基盤の圧力を下げなければならない。

ある程度の時間が経てば宇宙もかなり「滑らか」になって、圧縮が可能となり、物質がその光子の基盤上を「滑る」 ことができる。

そうするとすでに形成された星雲中に、星々の姿が現れるのである。

それまでは原則的には宇宙が等質ならば、どの部分においても同じことなのだが、これらの星は潜在しているのみなのだ。

球状星団の放射は赤外線中では弱々しいものなのだが、それが突如として輝きはじめることになる。

この瞬間を宇宙の進化のどの時点に位置づけるかについては、天文物理学者たちの間でも意見が分かれている。

星が誕生するには放射圧力や、球状星団における空間の剛性が、物質の存在に伴う剛性よりも小さなものにならねばならない。

この瞬間が宇宙が非イオン化される時期の後に来ることだけは知られているが、おそらく15億年と25億年の中間辺りであろうと推定されている。

以上の話がよく理解できない人のために、これを別なイメージで説明することにしよう。

フォームラバーの巨大なマットの上に水銀をふんだんに垂らす。このとき水銀は物質で、マットは空間の基盤であり、光子のガスである。

この水銀は、もしマットに柔軟性があり、その上を自由にすべっていくことができるとしたら、へこんだ部分に一滴ずつ溜っていく傾向を示す。

もしマットが完全に「ざらついて」いたら、そんなことはありえない。

この水銀とざらついたマットレスのイメージは、3000度以上の高温にある宇宙の状態を表している。

水銀はへこんだ部分に「溜まりたい」と願っているのだが、マットレスがそれに抵抗しているわけだ。それにこの段階では結合がある。

つまり水銀はほとんど「マットレスの表面に貼りついている」のである。

時間の経過とともに減結合の現象が現れる。すると水銀は表面をすべり、へこんだところに集まることができる。

だがマットレスのざらつきと租さの組み合わせに邪魔されて、それ以上の進展は見られない。

マットレスがもっと柔軟でもっと滑らかになり、表面のすべりが完全なものにならない限り、そこから細分化が始まるようなことはない。

ざらざらして粗いマットレスは放射庄の高い空間であり、そこでは物質は光子の基盤にしっかりと結び合わされているのである。

ここでわれわれは基本的宇宙放射が、どのようにして宇宙全域にわたって最初の星の誕生をコントロールしえたかを発見したことになる。

それではこの放射は宇宙における生命の出現の瞬間をも、同じようにしてコントロールできるものなのだろうか?

二十年以上前の話になるが、ロシアの科学者たちが、ある種の生化学反応は気温の低下とともに停止するが、トンネル効果(量子的性格を帯びた現象)によって超低温になると

再びそれが開始されることを証明して見せた。

したがって生命のプロセスを停止させるために冷蔵庫を使っても、超低温で再開されるプロセスがある以上、それは決定的な解決にはならないのである。

生命の創造に不可欠なある種の要素は、星の活動とはまったく別個のものであって、超低温でしか合成されないのだと想像してみればよいのだ。

この低温が絶対温度七度に近ければ、それは宇宙からやってきたこれらの主要分子がまかれた種となって、われらが地球に最初の生命組織が出現したと推定される時期と一致すること

になる。

そうなれば星やその惑星の生誕時期を正確に特定することは、あまり重要なことではなくなってくる。

良好な位置にあって生命の諸条件(液体状態の水などの)を満たしている惑星の表面には、前生物的な大量の分子が、すでに、宇宙からの合図を待っているのだ。

このようにして、生命の開始信号を送る最初の宇宙コントロールが解明される。

進化の要所要所でも、この種の現象によるコントロールが働いていると、どうして想像してはいけないことがあろう。

このような見地からすれば、一様な宇宙ではすべての惑星が同じリズムで、比較的狭い時間的レンジ(時間のズレは地球にもあるのだから、一万年ほどは見ておく必要があろ)

で進化していることになる。 それ以外にはありようがないのだから

これは形而上学ではなく、物理学をもとにして立てられた仮説である。進化の専門家は、生命の飛躍的進化の時代は、気象条件の大変動に関連するものと考えている。

気象条件は、たとえば惑星の回転の中心となる星の活動や、大隕石の衝突などの、様々な要素に左右される。

別個の星の周りを回る二つの異なる惑星の気候の時代的変化が、まったく同じだと考える理由は少しもないのである。

だから同時進行を維持し、人間が数億年の歴史を経た後でほぼ同じ瞬間に、出会うためには、惑星の外側にある信号のほうが、単なる気候の変動に由来する信号よりも強力なもので

なければならない。

そして場合によっては自然がこれらの偶発的変化に対応してその進化のスピードを遅くしたり、逆に早めたりすることができるようでなくてはならないのである。

もちろん、もし惑星の超「集合的魂」 のようなものが介入するのであれば、コントロールの性格も別なものとなろう。

だがユミットはこの惑星間の生命の同時性という、根本的問題についてはとくに触れてはいない。

もしわれわれのこの強制的な同時性という発想が正しければ、知性体のいるすべての惑星はほぼ同じ(数百もしくは数千年の違いは、宇宙的規模からすればほぼ同時だと言える)

進化の段階にあることになる。

人間の姿をしてわれわれに似た者しか地球を訪れないのもそのためだし、だからこそユミットは驚くほどわれわれに近い存在なのだと考えられるのである。

形而上学の見地からすれば、われわれは惑星固有の「集合的魂」の段階にとどまっており、違う惑星の集合的魂と互いに交信するようなことは、まだないのである。

心的現象が異なっている突然変異体が散発的にあちこちの惑星に出現し、その後これらの変異体同士が出会えるようなテクノロジーの発達があって初めて、惑星固有の生物圏と

それに関与する集合的魂、つまり「あの世」の未来のこのような組み合わせが現実性を帯びてくる。

今のところは、パストールの表現を借りて言うなら、惑星同士が恋愛関係にあるようなもので、まだ生まれてこない住人同士の結婚のために、今から接近工作※9がなされているという

ことができるだろう。

だが条件(テクノロジーの)さえ整えば、自然は適切な指令に従うことになろう。

しかも突然変異体は、いつなのか正確には言えないが、比較的近い将来に急激に増えると予告されているのである。

こうして得られた形而上学的モデルには、前章でも述べたように宇宙全体ほどの大きさの生きた機械のように、自らを形成しっつある「神」を彷彿させるものがある。

これが宇宙の根源的な意図なのであろう。このわれわれの宇宙の全域を占める精神的肉体的存在が、自分で他の宇宙とも連絡を取りはじめるとしても、それに何の不思議があろう。

どの段階をとってみても、突然変異体の生物は、それ以前の心的現象のレベルに位置する世代にとっては「神」なのだ。

動物にとってわれわれは「神」である。ウンモウアや、「人間+1」も、人間にとっての「神」であろう。そして星雲間の同盟プロジェクトに適合した「人間+2」は、

やはり「ワンモウア」や「人間+1」にとっての「神」となるのだ…。

もし宇宙が均質であれば、すべてがみな同じ段階にある。人間はいたるところにいて、ところどころに幾人かの先駆的突然変異体が、「人間+1」がいることになるのである。

このような条件では、遠い未来の生については予測不可能である。ユミットはこの点については明確に述べている。

未来は「存在しない」のだ。宇宙は未来をいわば丸首セーターのように編みあげていくのである。

だがもし宇宙が局所的にしか(たとえば星雲のレベルで)一様ではなく、大局的には異質なものであり、「物理定数」も距離が非常に開いた場所によって違ってくるのだとしたら、

事情は一変する。

この場合は生物学的物理学的進化の度合が、地域によって違ってくるのである。「人間+2」も宇宙空間のある地域では、すでに現実に存在しているのかもしれない。

彼らがどんな姿形をしているのか、誰が知りえようか。人間の姿をしているのだろうか?

彼らはわれわれには計り知れないような法則に従って、ユミットですら知らないような次元を経て、星雲の中を縦横に移動できるのだろうか?

彼らは「奇蹟」を起こして、遠い将来われわれを待ち受けていることに光を当て、はるかな未来を予測してくれるのだろうか?

どれもみな話としては面白い。そのうえこの世には唯一の神があり、「あの世」 には複数の神がいるという地球の形而上学の全体構造も明らかになってくる。

結論としては、次のようなことが考えられる。 科学者の考えるように「神」は存在せず、宇宙空間は目的を持たない。

「あの世」などというものもない。ついでに言うと科学者の「神」は、じつは偶然とか確率工学とか呼ばれているものだ。

ーーーヤーヴエとかウアとかゴッドとか、名前はともかく、唯一の神が存在する。

どの人もそれなりに正しくて、われらが地球は宇宙の進化の段階が異なる、様々な性質の、様々な地域から「神々」がやってきて自らのメッセージを残した。

それを人間が神話としてコード化したのである。

ヒンズー教などでは、神の下にまた神がいて、神々が階層構造をなしている。ユミットはこれに否定的ではあるが、もしかするとそれほど馬鹿げた話ではないのかもしれない。

ここで結論を下すことは避けたい。わたし個人としては、明確な思想は持ち合わせていないのである。

ただ科学者たちの神である偶然というものが、じつはそれほどうまく機能していないとは考えている。

偶然は進むべき道を指し示すこともなく、その目的は未だにはっきりしないし、その効果が必ずしもはかばかしくはないのである。

というわけで、どの方式を選ぶかによってざつと一ダースほども宗派がつくれそうである。

だがわたしの意図は別のところにあるのだから、そんな話は他の人に任せておこう。わたしは科学者であり、あくまでも科学者としての立場を貫きたい。もちろんいつの日か

人間の視床下部における電子の量子的飛躍※10を調べられる分析法が見つかり、その結果ハイゼンベルクの不確定性原理が局所的には破られていることが確認できるとしたら、それは

大変興味深い話ではあるのだが。

※1 ジョルダーノ・ブルーノ (1548~1600) イタリアルネッサンス期の哲学者。コペルニクスの地動説を認め、また一切の生物には神が内在しているという汎神論的世界観を

唱えたために、ローマで焚刑に処せられる。彼の思想は、スピノザ、ライプニッツ、ゲーテらに大きな影響を与えた。

※2 銀河系の周辺部に位置する、比較的古い星団。球の形に見え、成分的には、重い元素が少ないのが特徴。

※3 南太平洋諸島の先住民の間で行われる至福千年説の性格を帯びた宗教運動。特定の時が到来すると死んだ先祖の霊が船などに乗ってこの世にもどり、そのとき持ってきた積荷いっぱいの近代文化の所産をすべての信者に分かち与え、労働の必要もなくなり、白人の支配から解放されると信じられている。

※4 真空もしくは物体中を自由に移動する電子。

※5 この点に関する詳細は、筆者がブラン出版から出した『一兆個の太陽』(MileMi Miliardsdes de solails,Edishons Belin) という科学マンガを参照のこと。

※6 宇宙初期の高温状態では、電子が原子核から分離しており、光と相互作用を行なう。膨張により宇宙の温度が下がると、電子は原子核に捕えられるため、光は自由になる。

これが「デカップリング」で、われわれが地球で観測する宇宙は、この自由な光を見ているのである。

※7 宇宙全体に広がるマイクロ波放射。宇宙の初期状態が高温高密度であったことの、最も有力な証拠とされている。

※8 黒体とはすべての波長の放射を完全に吸収する物体。

※9 ユミットが地球人を監視し続けているのも、われわれが彼らにとって、潜在的な婚約者の両親の位置を占めているからなのだとも考えられる。

※川 原子中の電子には、惑星の軌道のような「準位」がある。量子論では、この準位が、いきなり変化することがある。この突然のジャンプを量子的飛躍という。