6.遺伝子組換え作物の現状と問題点

これは遺伝子作物を消費者から見た実態の説明会資料です。 (先回のは農水省からの説明会でした)どちらも主催者は同じ。

前回の農水省より深みが有り丁寧に説魅されて分かり易かったです、講師は名古屋大学で遺伝子の研究されていた方の様です。

(下線は私が入れたものです)

遺伝子組換え作物の現状と問題点

ー基本的な問題点を置き去りの危険な開発競争ー

(遺伝子組換え情報室河田昌東)

1。遺伝子組換え作物の栽培面積

2009年度の遺伝子組換え作物(以下GM作物)の栽培面積は世界で1億3400万ヘクタール、日本の総面積の3倍を超える。

内訳はアメリカ47.%、アルゼンチンとブラジルがそれぞれ16%、インドとカナダがそれぞれ6%、その他9%であった。 前年度と比べて、栽培面積は微増したが、全体として横ばい傾向となった。

最も大きな栽培シェアを占めるのは南北アメリカ大陸である。

作物別では大豆52%、トウモロコシ31%、綿12%、ナタネ5%である。

2007年度は大豆からトウモロコシへの転作が目立つたが、これは世界的な石油不足に対して、バイオエタノールの原料となるトウモロコシの需要が増加したためで、その結果、食用や飼料用の大豆やトウモロコシの世界的な価格高騰につながり、大きな問題となった。

しかし、09年度は石油価格の下落もあり、トウモロコシへの転作も少なかった。このことは、遺伝子組換え作物の栽培が投機的な性質を持つことを示している。

性質別では除草剤耐性62%、害虫抵抗性15%、この両者を併せ持つもの23%であり、両者を併せ持つGM作物の増加傾向がみられるが、新たな形質をもGM作物の栽培は現れず、これも固定化傾向が明らかである。

2。-何故遺伝子組換えか

交配や突然変異による品種改良では、植物が本来持つ以上の性質は付加出来ない。

それをカバーし、分類学上かけ離れた生物の性質を持たせるのがいわゆる遺伝子組換えである。

除草剤耐性や害虫抵抗性など多くは土壌細菌の遺伝子である。この技術により増収や省力化の他、これまで不可能だった環境下でも作物の栽培が可能になり、増加する地球人口を養うものと期待された。これらは第一世代の遺伝子組換えという。

その後、医薬品や栄養改善など特殊目的の第二世代や工業原料をつくる第三世代GM作物も登場しつつある。

日本は第二世代遺伝子組換えをイネで集中的に行っており、花粉症緩和米やワクチン生産用米などの開発が進められている。

3。裏切られた期待(1)増えない組換え作物の収量、しかしGM化が進む理由

1996年にアメリカで本格的に栽培が始まるまで、大々的に宣伝されたGM作物の収量増加について、第三者による本格的な検証が始まったのは、1998年になってからである。

アメリカ中西部の穀倉地帯ネプラスカ州やイリノイ州など8つの州立大学が、モンサント社の除草剤耐性大豆とその親株を使い、大々的な収量試験を行った。その結果は、全く予想を裏切るものであった。

親株の在来穫に比べ、除草剤耐性大豆の収量は平均で6%、地域や株によっては20%以上も減収した。

除草剤耐性と同じく収量増が期待された殺虫遺伝子を持つトウモロコシ(Bt)も収量は親株とほとんど変わらす、農家にとっては遺伝子組換え種の値段が高くなり、契約により自家採取できないマイナス

面があらわになった。

除草剤耐性ナタネの収量も非組換えに比べて数%~10%の減収である。にもかかわらずアメリカでは何故今もGM作物の栽培が増えつづけているのだろうか。

理由は、アメリカ政府による大規模なGM補助金である。アメリカの農家の大豆生産コストは市場価格の2倍にも上る。その差額は政府の農業補助金、即ち税金でまかなわれている。

農家は補助金さえでれば、省力化が可能で大規模栽培に適したGM作物を増やす。アメリカはGM大豆やトウモロコシ、綿などを大規模に栽培し、世界の中で穀物輸出における主導権を目指している。

GM作物はアメリカにとって戦略物資である。アメリカは自国の作物に対する手厚い補助金で輸出価格をダンピングし、WT Oを通じた自由貿易競争を主張して、アジアやアフリカの農業の競争力をそぎ自立を妨害している。

他方で、飢餓に苦しむアジアやアフリカ諸国にGM作物の援助受け入れを強要している。

遺伝子組換え作物が投機の対象になる傾向は、GM作物がエネルギー作物として認知されるようになった現在、ますます激しさを増すと考えられる。

世界最大のGM企業モンサント社は、2008年、それまでのGM大豆よりも収量が7~11%あがる第2世代の除草剤耐性大豆を発表したが、それは、本来の非組換え大豆の収量に回復したに過ぎない

4。ー.裏切られた期待(2)減らない農薬、環境にやさーしくないGM作物

収量増と同時にGM作物のメリットとして期待された、農薬使用量の減少も期待はずれであった。

今、アメリカやカナダでは除草剤耐性雑草「スーパー雑草」が大きな問題になっている。

事実上モンサント社のラウンドアップ除草剤耐性大豆やナタネ、トウモロコシが栽培面積の大半を占めた結果、「耐性雑草Jが現れたのである。

最近のニューヨーク・タイムス紙によれば、アメリカの大豆農家の半数は除草剤耐性雑草を体験している。その結果、当初は1回だけですんだラウンドアップ除草剤散布は、今では3回散布が当たり前になった。

抗生物質多用で院内感染が問題になっている抗生物質耐性菌と同じことが、野外で大規模に起こったのである。 これは耐性雑草と新たな除草剤耐性作物開発のイタチゴツコの始まりである。

2008年度、アメリカでは初めて除草剤耐性雑草の繁茂により、GM大豆栽培を放棄する農家が出た。

複数の除草剤に耐性の雑草が出現し、スーパー雑草と呼ばれている。

これをカバーするために、危険な除草剤24-Dに耐性の作物を作るに至っている。

5。.健康に与える影響

遺伝子組換え食品の健康に与える影響について、最近になうて様々な研究が出てきている。

①除草剤多用の影響は、農家にとって経済的負担になるばかりでなく、残留農薬の危険性も増す。

このことは1992年の時点で既に明らかになっていた。除草剤耐性大豆の安全審査に当たって、モンサント社は大豆の残留除草剤濃度基準を大幅に引き上げるよう政府に迫った。その結果、アメリカの家畜飼料となる大豆全草のラウンドアップ残留基準は15ppmから100ppmに引き上げられた。

アメリカから大豆を輸入している世界中の国々も、アメリカ政府の要請により、0.1ppmから20ppmに引き上げられた。日本の大豆の残留基準もそれまでの6ppmから20ppmになった。

企業の力は世界の政府の安全基準も変えたのである。

最近さらに露骨な残留基準の引き上げが行われた。ラウンドアッフの残留基準は、従来はラウンドアッフ。の化学物質名であるグリフォサートとその分解物AMPAの合計値が基準だった。

しかし、アメリカ政府とモンサント社は、モンサント社の実験結果を無視した形でこの基準値からAMPAを除外し、グリフォサートだけを基準物質とした。これは事実上基準を2倍に引き上げたのと同じである。

モンサント社の実験によれば、AMPAの毒性はグリフォサートよりもむしろ強い。これは耐性雑草の出現と、除草剤散布量増加に対処するため、安全性を無視したものである。

除草剤グリフォサート耐性大豆の大規模栽培を行い、大量のグリフォサートを空中散布しているブラジルやアルゼンチンでは、出生異常が多発している。

ブラジル、アメリカ、イギリス、アルゼンチンの合同研究者チームは、通常使われている濃度よりはるかに低い濃度で、蛙やニワトリの発生に異常をきたす、という研究結果を2010年に発表された論文で明らかにしている。

2008年12月、フランスの毒物学研究誌(Chemical Research in Toxicology)に公表された研究によると、通常の105倍に薄めたラウンドアップ除草剤でも人間の培養細胞(臓の緒、膝、胎盤)を殺す、という。

これは、実際の畑での使用状態で人聞があぴたり、除草剤耐性植物中の残留濃度に匹敵する濃度レベルで、研究者らはその生化学的メカニズムも明らかにしている。上記の安全性基準の緩和の問題にも大きな波紋を投げかけるものである。

②2005年、ロシアの研究者イリーナ・エルマコヴァによって驚くべき研究が行われた。モンサント社の開発した除草剤(ラウンドアップ)耐'性の大豆を食べさせたラットの母親から生まれた子どもの55,6%が低体重児で、生まれてまもなく死亡するという結果が得られた。非組換え大豆や大豆を食べさせなかったラットの死亡率は低かった。これまで、組換え作物の安全性試験は、食べさせた動物自身の健康のみに限られていたが、次世代の安全性までは確認していなかった。この研究は今後大きな影響を与えると思われる。

③また、2002年、英国で興味ある実験が行われた。除草剤耐性大豆を被験者に食べさせ、時間を追って人工妊門から便を採取、その中の遺伝子の分解度を調べた人体実験である。

その結果7名全員から未分解の除草剤耐性DNAと同時に除草剤耐性菌も検出された。これは大豆中の除草剤耐性遺伝子が腸内細菌遺伝子に組み込まれたことを意味する。

抗生物質耐性遺伝子があれば抗生物質耐性菌が発生した可能性が高い。家畜飼料への抗生物質混入は常態化しており、飼料から抗生物質耐性遺伝子が供給されれば耐性菌の発生は避けられない。

多くの遺伝子組換え作物の開発には、組換え遺伝子を大腸菌で増殖させ、組み換え体を非組み換え体から選別するーために「抗生物質耐性遺伝子Jが組み込まれている。これは、いったん組換え体が分離出来れば無用の長物である。北海道農業研究センターが開発した酸性土壌耐性イネや岩手生物工学研究センターの開発した「耐寒性イネJには「カナマイシン耐性」と「ハイグロマイシン耐性」の二つの抗生物質耐性遺伝子が入っている。

これらは、イネの中で発現しているばかりでなく、食べれば腸内細菌に取り込まれて「抗生物質耐性菌」に変わる恐れがある。こうした危険性があるため、世界保健機構(WHO)は早くから遺伝子組換えにおいて抗生物質耐性遺伝子の使用を中止するように勧告してきたが必要悪どして今も使われている。こうした基本的な問題解決こそがまず必要である。

④遺伝子組換え作物は、従来人間の食習慣になかった土壌細菌の遺伝子が作るたんぱく質を含むため、

アレルギーの危険性が増す。例えば除草剤耐性大豆のたんぱく質には、イエダニのアレルゲンと同じアミノ酸配列が含まれており、予期しない健康被害もありうる。

実際、遺伝子組換えパパイヤの蛋白質には、回虫のアレルゲン配列が含まれ、実際に血清反応が確認されている。オランダの研究者らは、現在のコンピューターのみに頼る遺伝子組換えアレルギーの安全性チェックに大きな警鐘をならしている。

アレルギーのあるなしは、遺伝子組換え作物の安全性に関わる大きな問題である。

⑤2008年12月に発表されたオーストリアの研究報告は今、大きな波紋を呼んでいる。

国立農業保健省の委託でウィーン大学の研究者らが行った研究で、遺伝子組換えトウモロコシ(除草剤耐性と害虫抵抗性の両方を含む:日本政府は2004年に認可)を食べさせたマウスを4世代にわたって交配実験した結果、GMトウモロコシを食べた世代は次第に不妊傾向がたかまり、子どもの数が少なくなった。

これは統計的にも有意差があり、著者等はさらに研究が必要と警告しているが、

この研究報告はこれまでに発表された研究の中でも最も徹底的な実験と分析が行われており、信頼性が高いと思われる。

これまでアメリカや日本での認可に当たっての安全性基準は、多くが実験動物に4週間程度食べさせ、体重増加や実験終了後の臓器の重量をはかるなど、短期間に限られていた。

この点について、WH Oなども最低3ヶ月の実験が必要と勧告してきた。

①のヱルマコバの実験に加え、最近ロシアの別の研究者等は、三世代にわたるGM大豆を食べさせたハムスターが、次第に生殖能力を失い、3世代目には子どもが生まれなかった、と云う報告をしている。

次世代毒性も含めた安全性確保の重要性が明らかになって来ている。

6。.環境に与える影響

GM作物が環境に与える影響は多様である。害虫抵抗性(通称Bt)のトウモロコシは、殺虫遺伝子をもつが、その花粉が周辺に飛散し他の雑草に降りかかる。それを食草とする蝶の幼虫が巻き添えで死ぬことが分かり、種の多様性の問題をめぐる論争に発展した。

この遺伝子が作る殺虫タンパク質は、植物の根から分泌され、土壌粒子に結合して1年間も土壌昆虫を殺す能力を持つことが分かっている。

今最も深刻な問題は「遺伝子汚染」である。カリフォルニア大学の研究者が、メキシコ山中の野生トウモロコシに組換え遺伝子を検出した。トウモロコシ原産国のメキシコは野生種を保護するために1998年から組換えトウモロコシの園内栽培を禁止している。最近(09年2月)、メキシコ国立大学の研究でもこの遺伝子汚染は確認、されている。

農水省はGM作物の国内栽培を認めてはいるが、近隣在来種との交配による遺伝子汚染や、有機農業への影響、風評被害など、を恐れて実際には農家は国内栽培をしていない。

北海道はGM作物の栽培に関し、独自の栽培規制条例を作り規制に乗り出している。国土の狭い日本では、一度GM作物が栽培されれば、在来種の汚染は避けられない。

広大なアメリカでもすでに、非汚染作物の入手は困難な状況である。厳しい対策を講じなければアメリカを基点とし、遺伝子汚染は今後も世界に広がるだろう。

7。-国内の遺伝子汚染・--GMナタネの自生と拡散

04年夏、茨城県鹿島港周辺で遺伝子組換えナタネの自生があることが農水省によって発表された。

我々はすぐに各地の市民団体の協力を得て国内の他のナタネ輸入港周辺を調査し、岡山県水島港を除く、千葉港、鹿島港、横浜港、清水港、名古屋港、四日市港、神戸港、博多港でのGMナタネの自生を確認した。千葉港や鹿島港、四日市港では港内から外に自生が広がり、国内産ナタネや野生のカラシナなど野生種や栽培ナタネ科植物への交配による組換え遺伝子の拡散が懸念されている。

四日市から南に約40km先の製油工場までの国道23号線の沿線には、本来なら存在しない西洋菜種が多数自生しており、現在その70~80%は除草剤耐性である。

これらの遺伝子組換えナタネは本来1年草だが、ここでは多年草化して巨大化、越冬し、回聞の畦や道路端で世代交代している事実が確認された。

それに伴い、様々な問題が新たに浮上している。

自生GMナタネは、近縁種のアブラナ科作物(在来ナタネ、ブロッコリー等)と交配したり、現在野生化して各地の河川敷に繁殖している西洋カラシナとも交配している事実を我々は確認している。

また、我々は08年11月2日の調査で、国道23号線沿いの中央分離帯で、2種類の除草剤(ラウンドアップとバスタ)に耐性のGMナタネを初めて発見した。本来この2種類は別々の企業が開発し、特許権をもつものである。これは23号線沿いに自生する2種類がお互いに交配して生じた雑種であり、すでに白然環境中での交配が始まっていることを示す。

2010年の我々は、四日市地域の国道23号線で全国にある野生の雑草ハタザオガラシとの交配が疑われる除草剤耐性雑草を確認した。

こうした情況を放置すれば商業栽培ではなく、意図しないGM作物の自生によって遺伝子汚染が広がる危険性がある。これは今後除草剤耐性や害虫抵抗性だけでなく、薬用GM作物の開発と輸入の進展次第では深刻な問題を起こすだろう。

昨年10月に名古屋で、開かれた生物多様性条約締約国会議(COP10)と、カルタヘナ議定書締約国会議(MOP5)では、遺伝子組換え生物が原因で生じた損害の修復について激しい議論の結果、損害修復についての国際合意が得られた。カルタヘナ議定書国内法ではこうした問題に対処できず、今後国内法を改定しなければならない。

8。.技術上の問題点

遺伝子組換え技術によって生物の種の壁は事実上無くなった。今では細菌、植物、動物(人間も含む)の遺伝子をお互いに入れ替えることが可能になった。

しかし、遺伝子の交換可能性を基礎にした商業栽培のメリットという既成事実が優先し、宿主の遺伝子に与える外来遺伝子の影響については殆ど、分かつていないのも事実である。

第一の問題点は、

外来遺伝子を作物(宿主)の遺伝子に挿入する際、挿入場所の予測が不可能なことである。挿入はランダムである。このことが遺伝子組み換えや遺伝子治療の最も基本的困難でかつ未解決の問題である。

これは、遺伝子の標的問題といわれる。宿主染色体の中の正確な標的に外来遺伝子を送り込むことが出来なければ、宿主遺伝子への様々な影響を排除することは出来ない。

数千の組み換え体細胞の中から、宿主親株と出来るだけ似ているものを選び出すことが今でも組み換え体作出の大きな手間であり、これは従来の交配による品種改良と変わらない。

第二は

組み換え体と非組み換え体の選別が必要なことである。そのため選択マーカー遺伝子と呼ばれる抗生物質耐性遺伝子や除草剤耐性遺伝子を目的遺伝子に連結し、細胞が抗生物質耐性や除草剤耐性になったか否かで組換えの成否を判別する。

従って、除草剤耐性以外のGM作物は目的の遺伝子と同時に抗生物質耐性遺伝子を持つ。抗生物質耐性菌発生なと、の危険性は上に述べたとおりである。

9。.進化や生態系への影響

遺伝子汚染はなぜ問題か。理由は外来遺伝子の構造にある。外来遺伝子は異種生物の遺伝子である。

種の墜を無視した異種生物の遺伝子の挿入の長期的影響はどうであろうか。

また、外来遺伝子を単独で作物に挿入しても機能しない。

細菌と高等動植物とは遺伝子のスイッチ(プロモーター)や遺伝暗号の終わりを示すターミネ{ター構造が異なるからである。

それで除草剤耐性の場合、プロモーターにはカリフラワーの病原ウイルスの遺伝子、ターミネーターには植物に腫瘍を作る細菌の遺伝子断片などを使う。その他、除草剤耐性タンパク質を葉緑体に運ぶためペチュニアの遺伝子の一部も使う。

このように、目的の形質を発現させるために、本来、植物の進化の過程ではあり得なかった生物やウイルスの遺伝子をモザイク状に連結しそれを宿主に入れる。これが遺伝子汚染によって近縁の野生植物に伝播した場合の生態系や進化に与える影響はその評価方法すらまだない。