カカドゥ国立公園

 オーストラリア・ノーザンテリトリー州の北部に位置する国立公園。州都ダーウィンから東に車で1時間ほどの距離にある。複合遺産に認定されており、自然遺産としての側面では、熱帯雨林、氾濫原、湿地、マングローブ林など豊かな自然があり、動植物の多様な生態系を保護している。また数百キロメートルにわたる岩の断崖が続き、壮大な景観を提供している。国立公園の中心を通る南アリゲーター川に沿って随所に存在するビラボン(三日月湖のオーストラリア独自の呼び方)の周囲では、多彩な水鳥やワニ、ワラビー、睡蓮などを見ることができる。

 文化遺産としての側面では、カカドゥおよび北東部のアーネムランドには、アボリジニ(オーストラリア先住民)の文化が多く残されている。アボリジニ文化は、各地で見られる岸壁に描かれた岩絵によってよく表現されているが、カカドゥにはこの岩絵が描かれている場所が多数存在する。

 アボリジニはこの地域に約6万年間暮らしてきた。その後探検家や入植者がやって来たが、この地は大規模な開発からは逃れることができた。国立公園の指定以後は地域の保護が進み、2022年には国立公園の約半分の地域がアボリジニに返還された。現在この地域は、アボリジニと国立公園の管理人の共同によって管理されている。

 そうしたアボリジニの文化としてのオーストラリア神話において重要なのは、ドリームタイム(夢の時)という考え方である。これは夢として経験される、さまざまな事物の起源となった伝説的時代を指す。岩絵もしばしば、このドリームタイムの出来事や存在を描いており、そこにはバイアメ、ジャマル、ダラムルンなどの神的存在も見られる。また、ユルングルやウングッドと呼ばれる虹蛇も幅広く信じられている存在で、雨と豊穣をもたらす存在として信仰を集めている。

 岩絵には、カンガルーや鳥、ヤムイモなどの動植物も多数描かれているが、そうした絵は動物の狩り方や食べ方を伝えるだけではなく、動植物を描くことによってそれらの数が増殖することが願われているとされる。実際に、動物の増殖を願う儀礼が行われていたことが、人類学者によって報告されている。

 こうした岩絵を描くのには、粘土とさまざまな物質を混合した顔料が用いられる。よく見られるのは赤、白、黄、黒のものであり、多くの絵がこれらの色で描かれている。岩絵をカラフルに彩色するのは単なる美的な意味合いだけではなく、彩色することで描かれたものが活性化し、動植物の増殖に繋がると信じられているという。またボディペイントにも同じ顔料を使用するが、ここにも儀礼的な意味合いが含まれている。

参考文献