中世都市トルニ

トルンの起源は13世紀半ばにさかのぼる。キリスト教化されたヨーロッパと、異教徒(自然崇拝、部族宗教)が支配するプルーセン(ポーランド北東部からリトアニアにかけての地域)の緩衝地帯に位置していたトルンにドイツ騎士団が植民し、キリスト教化の拠点として城を築いた。ほどなく騎士団はプルーセンを占領したことから、トルンはむしろバルト海からロシアに至る貿易の拠点として発展をとげる。ハンザ同盟をけん引する商都となった14~15世紀の繁栄ぶりは、現存する建物の凝った意匠からも見てとれる。裕福な商家であった天文学者コペルニクスの生家もその1つと言えるだろう。

一方、ドイツ騎士団の脅威に対抗するため、近隣諸国は徐々に連合を強化し始める。ポーランドとリトアニアが連合してできたヤギェウォ朝は、現在のウクライナ、ベラルーシ、チェコなどに至る広大な地域から援軍をつのり、1410年、トルンの東100kmに位置するグルンヴァルト(タンネンベルク)の戦いでドイツ騎士団を撃退した。トルンにおいても住民と騎士の対立が起こり始める。住民は騎士団への協力を拒否し、騎士を都市から追放し始めた。1454年にはトルン住民が決起し、ドイツ騎士団の城を破壊。その後、両者の間で続いた「十三年戦争」に勝利したトルンは、王より数々の特権を与えられた。しかし、ハンザ同盟の商都としては衰退していく。

16世紀、トルンに宗教改革の波が押し寄せた。1557年には都市として公式にルター派に改宗し、ポーランドにおけるプロテスタントの牙城となる。やがて、カトリック国教としたポーランド共和国(国王)と、ドイツ系のプロテスタント住民が町の支配階級を占めるトルンは対立を抱えるようになった。1724年、イエズス会の神学生とルター派の青年の間で始まった乱闘騒ぎの結果、イエズス会神学校がプロテスタント住民に襲撃された。プロテスタントである市長と12人の役人がこれを看過したとして王立裁判所より死刑の判決を受け、以後、プロテスタント教会は大きく権利を制限されることとなった。このような都市の歴史は、各教会の所有者・管理者が、カトリック教会(小教区)、プロテスタント教会、カトリックの各修道会など、変転していることからも読み取れる。

【主要な教会】

13世紀後半からの歴史を持つ聖母マリア被昇天教会は、当時はフランシスコ会の修道院だったのが、1557~1724年にはプロテスタントの教会となり、1724~1821年には再びカトリックの修道会のベルナルド会の所有に、1830年からカトリックの教区教会となった。14世紀の壁画や、15世紀に製作された極めて精巧な彫刻の施された聖歌隊席の椅子などの調度品が今日まで残されており、プロテスタント期に作られた都市の有力者のエピタフ(墓碑)にも精巧な意匠を凝らしたものが多い。

トルン生まれの著名人、ミコワイ・コペルニク(ニコラウス・コペルニクス)が洗礼を受けた聖ヨハネ大聖堂は13世紀に建造が開始されたトルン最古の教会。コペルニクスが洗礼を授けられた水盤も見ることができる。教会の塔には1500年に鋳造されたポーランドで2番目に大きい鐘「神のラッパ」が釣られている。1530~83年にはプロテスタント教会として使用され、その後13年間、カトリックとプロテスタントが共有する教会に。1596年にイエズス会の管轄となった。現在トルンの司教座大聖堂となっている。

旧市街の中央広場に面して建つ聖霊教会はプロテスタントの教会として建立された。1724年の教派間対立の結果、聖母マリア被昇天教会を使用することを禁じられたプロテスタント系市民は、手狭なアルトゥス邸(中央広場6番地)のサロンに集い、礼拝を行っていたが、やがて国内外で献金を募り、デザインのコンペを行うなど、新しい教会堂の建設準備を精力的に進めるようになる。このことがカトリックの急進派を刺激し、一旦は国王アウグスト3世が建設を禁止するに至ったが、1754年、当初の案を大幅に縮小した礼拝堂として建設が許可された。その後も増築を繰り返し、トルンのほかの教会とは外観の異なる後期バロック様式の教会堂が完成した。終戦後の1945年、教会はカトリック修道会のイエズス会に譲渡された。

参考文献

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/torun/maria

聖母マリア教会

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/torun/jan

聖ヨハネ大聖堂

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/torun/ducha

聖霊教会

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/torun/%E9%A8%8E%E5%A3%AB%E5%9B%A3%EF%BC%92.jpg?attredirects=0

ドイツ騎士団の城跡

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/torun/%E9%A8%8E%E5%A3%AB%E5%9B%A3%EF%BC%91.jpg?attredirects=0

ドイツ騎士団の城跡

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/torun/kopernik1

中央広場のコペルニクスの像

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/torun/kopernik2

コペルニクスの生家