フェスは、モロッコ最古のイスラム王朝であるイドリース朝の都として9世紀に建設され、宗教・文化・学問・商業の都として繁栄した。町には、スペインのアンダルシア地方(コルドバなど)から移住してきた人々と、カイルアン≪→参照:カイルアン≫から移住してきた人々が別々の居住区を作って併存し、それぞれの独自性を守って発展してきた。
旧市街には、カラウィーン・モスクを中心に、周囲に4つのマドラサ(神学校)がある。カラウィーン・モスクは、カイルアンからやって来た人々により857年に建設された小さな礼拝堂を増改築したもので、現在は2万人以上を収容できる北アフリカ最大のモスクである。12世紀半ばにはほぼ現在の規模に達していたとされる。建物は黒タイルを敷きつめた中庭を中心に構成され、ファサードのない、典型的なイスラム建築である。このモスクに付属するマドラサ(神学校)は、既に10世紀に大学としての機能を果たしており、イスラム最古の大学の1つとされるカラウィーン大学の基となった。歴史家のイブン・ハルドゥーン(1332~1406年)もカラウィーン大学で教鞭をとった。
スペインから来た人々は、860年頃、川を挟んで反対側の地域にアンダルス・モスクと呼ばれる大モスクを建造した。
その他にも旧市街には、14世紀に建設されたアッタリーン・マドラサやブー・イナニア・マドラサなども現存しており、マーリン朝下でフェズが学問の町としての名声を轟かせた様子を今に伝えている。また、これらのマドラサの中庭は、大理石の床や壮麗な装飾が施された壁に囲まれており、中央には冷たい水をたたえた水盤が置かれ、イスラム建築の特徴が見て取れる。
また、809年にフェズを首都と定めたイドリース2世はフェスを守護する聖者として崇められており、1437に建造され、18世紀に再建されたムーレイ・イドリース廟には現在でも巡礼者が絶えない。
ところで、フェズに残るのは、イスラームの宗教遺産だけではない。王宮の南側では、旧ユダヤ人居住地区(メッラハ)の町並を見ることができる。モロッコには、中世スペインで迫害されたユダヤ人が移住して来たとされるが、中でもフェスのユダヤ人街は最古のもの(14世紀以降)として知られる。