ダンブッラの黄金寺院は、キャンディ、アヌラーダプラ、ポロンナルワを結んだ「文化三角地帯」の中心部に位置する。高さ約180mの黒褐色の巨大な岩山の中腹にある天然の洞窟を利用して造られたスリランカ最大規模の石窟寺院である。
前3世紀頃から仏教僧院として利用されていたところに、スリランカの初期仏教時代にあたる紀元前1世紀に、シンハラ朝第19代ワッタガーマニー・アバヤ王によって寺院が築かれたと伝えられる。前1世紀にダンブッラの南側の石窟住居のうち最上部が複数の寺院に改造され、その後も5~13世紀にかけて繰り返し改造が行われていき、12世紀末には仏像が安置され金箔が施されて現在の全体的な形状と配置が整ったという。造営は20世紀初頭まで行われた。
石窟内部の総面積2100㎡の岩肌は極彩色の壁画で埋め尽くされ、涅槃仏を含め金箔を施された仏像が160体以上安置されており、それが黄金寺院という名の由来となっている。
黄金寺院は5窟からなるが、第1窟には長さ約14mの横臥仏陀像、最大規模の第2窟には50数体の仏像やシンハラ族とタミル族との約千年にもわたる抗争を描いた極彩色のフレスコ画がある。歴代の王により、何度も修復され、繰り返し塗り直されたため、現在でも鮮やかさを保っている。
洞窟の中に建立されている各時代の仏像や仏塔、壁面に見られる古代ブラフミー文字の刻文などからも、古代から有力者の庇護を受けて、何世紀も続いてきた石窟寺院であることがわかる。また、ダンブッラは古くから信仰心の篤い仏教徒の巡礼地としても知られており、スリランカの仏教とその伝統を知るうえでも重要な遺産である。
長い年月をかけて随時手が加えられている壁画や仏像の、最近の層を剥がして以前の画を表に出そうとする試みもあるが、表面を常に完璧に塗り整えるという「伝統」と相反する行為でもあり、配慮を必要とするとも指摘されている。
・奈良康明・下田正弘編(2011)『新アジア仏教史04 スリランカ・東南アジア 静と動の仏教』佼成出版