リスボンのジェロニモス修道院とベレンの塔

リスボン港の入口に建つジェロニモス修道院は、ポルトガル王マヌエル1世の命により1501年に始まった。これはバスコ・ダ・ガマの第一回航海の直後にあたり、修道院の建造には香辛料貿易の利益が惜しみなくつぎ込まれた。航海の成功を記念して建てられたベレンの塔とともに、大航海時代に覇権を誇った海洋国家ポルトガルの富と威信を今に伝えている。

ジェロニモス(聖ヒエロニムス)修道院は、ヒエロニムス会が王から下賜されたものであったが、修道士たちは王のために祈りを捧げるとともに、リスボン港から「新大陸」に向け船出して行く船員たちへの加護を祈った。また、同修道院は、エンリケ航海王子を顕彰する役割も担った。王子は自ら航海をしたわけではないが、パトロンとして大航海時代の先鞭をつけた人物とされる。リスボン港に突き出すように1960年に建設された、船の舳先を模した「地理上の発見の像」には、名だたる航海士たちの先頭に立つようにエンリケ王子の像が設置されている。エンリケ王子はキリスト教の信仰に篤い人物で、王子が探検に出資した目的の1つは、12~14世紀頃にヨーロッパ社会で信じられていた伝説のキリスト教徒「プレスター=ジョン」(遠く離れた東方の世界にキリスト教徒が住んでいて、十字軍を助けるためにエルサレムにやって来るという伝説)を探すためであったと考えられている。

ジェロニモス修道院は「マヌエル様式建築」と呼ばれる、極めて緻密で繊細な彫刻で彩られている。建物の大部分が制作当時のままに保存されており、16世紀の回廊、18世紀頃まで修道士たちが使用していた食堂、図書館などがそれに含まれる。また、細長い柱が高いアーチ天井(ヴォールト)を支えているサンタマリア教会の身廊も芸術的な評価が高く、その姿は「椰子の木」に例えられることもある。

マヌエル1世以来、同修道院は王家の墓となっており、棺に施された彫刻も見どころの1つである。また、探検家のバスコ・ダ・ガマ、詩人のフェルナンド・ペソアなど、ポルトガルを代表する名士の棺もともに納められている。

参考文献

ジェロニモス修道院

外観

回廊

クワイヤ

旧・食堂

十字架とヴォールト天井

身廊

サンタマリア教会

身廊

祭壇

「ピエタの祭壇」

王墓

バスコ・ダ・ガマの棺

その他の周辺施設

神話を題材にしたモザイク画(国立考古学博物館)

絵画「フランシスコ・ザビエルの生涯」(サンロケ博物館)

南蛮貿易の史料

南蛮貿易の屏風絵(国立古美術館)

地理上の発見の像