南西イングランドに位置するバース市街は、ローマ時代に作られたスリス・ミネルヴァ神殿や浴場を含む温泉施設の遺跡(ローマン・バス)と、18世紀にジョン・ウッド親子、ラルフ・アレン、リチャード・ナッシュなどの建築家たちによって建てられたジョージ王朝式の建造物などから構成される世界遺産である。
バース温泉の開湯伝説にはリア王の父とされる神話上の人物、ブラドット王が深く関わっている。神話によれば、ブラドットはケルト(ブリトン人)の王子であったが、ハンセン病を患っていたため王宮から追放された。彼はバースの周辺を家畜の豚とともにさまよっていたとき、豚たちがお湯の湧き出る場所で泥のなかを転げ回り皮膚病を癒しているのを見つけた。彼も豚に続いて温かい泥のなかに入ってみると、たちまちハンセン病が治ったので、王宮に戻って王位を継ぎ、温泉の出るこの地を療養地として開拓したのだという。
温泉の上に建てられた神殿の遺跡からは、ローマ神話に登場するミネルヴァと同一視されたケルトの女神スリスや、ギリシャ神話に登場するゴルゴンと思われる顔が中央に装飾されたペディメント(三角形の切妻壁)の一部が見つかるなど、様々な信仰の中心地であったことが示唆される。
こうしたローマン・バスにおける信仰のイマジネーションは18世紀の建築にも取り入れられた。例えばジョン・ウッド(父)が設計した、「サーカス」と呼ばれる、巨木がそびえ立つ広場を囲むように建てられた三棟のテラスハウスの上部には、ドングリを模したモニュメントがずらりと取り付けられているが、これはケルトにおける豊穣の象徴であり、この他にも全面の壁には様々な魔術的・フリーメイソン的なモチーフが装飾されている。
バースは市街地全体が世界遺産として登録されており、ローマン・バースだけでなく、市街を取り巻く美しい緑の丘や、18世紀の都市計画によって統一されたライム・ストーンを用いた明るい色調の街並みが一体となって景観を形作り、現在でも世界中から多くの観光客を惹きつけている。
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