マウルブロンの修道院群

世界で保存状態のもっとも良い、シトー会の宗教施設群。ドイツ南西部に位置する。

ベネディクト会が本来の厳格な戒律から逸脱していると批判した数人の修道士がフランス・ブルゴーニュのシトーで1098年に創設した新しい修道会がシトー会である。シトー会の修道士は封建領主の身分を捨て、十分の一税などの収入を求めず、助修士とともに労働に従事した。修道院も修道士たちの手によって建設され、自給自足のコミュニティを形成していた。12世紀後半に建築されたマウルブロンの修道院群には、そうしたシトー会の特徴がよく現れている。総会室、貯蔵室、診療所、桶工場、製粉所など様々な建物が13世紀までに建てられたという。シトー会は自給自足のための新しい技術を発展させたが、特に水力工学の技術力には目を見張るものがあった。貯水池、用水路、下水設備などの複雑なシステムにより、マウルブロンの修道院群で養魚業と農業が行われていたとみられる。

19世紀まではそうした用水システムが一貫して使われていたようである。また、建築様式にも「質素」と「自給自足」というシトー会の理念が表現されている。たとえば、修道士の瞑想を妨げないように聖堂内には絵画や彫刻などの装飾がなく、窓には無色に近い透明なガラスのみが用いられ、さらに十字架も置かれていなかった。宗教改革後、マウルブロンの修道院群は何回も略奪され、30年戦争の講和条約である1648年のウェストファリア条約によってプロテスタントの修道院になった。現在もプロテスタントの神学校があり、14歳から16歳の生徒たちが全寮制の教育を受けている。ドイツ有数の名門神学校として知られ、ヘルマン・ヘッセやフリードリヒ・ヘルダーリンを輩出している。

参考文献リスト