バハイ教は成立して200年に満たない新しい宗教である。信者総数は500万人程度だが、信仰共同体は世界236の国や地域に広がっており、これはカトリック教会に次いで世界2番目の数字となる。
19世紀半ば、イスラム教シーア派(十二イマーム派)の民衆の間では、第12代イマームが「隠れて」からイスラム暦で千年を迎えることから、間もなく「隠れイマーム」が姿を現すという「再臨」の期待が高まっていた。そのような背景から、預言者ムハンマドの血縁で、並はずれて優秀な学才、商才を誇り、人格者との誉れ高かったサイード・アリー・モハンマド(後に「バーブ」と称した)が人々の崇敬の対象となる。1844年、バーブは神からの啓示を受けたと宣言し、多くのシーア派イスラム教徒がそれに従うようになった。イスラム教指導者はこれを脅威と捉え、バーブを逮捕、拷問し、異端の咎で銃殺刑に処した。
バーブの教えを体系化したのは、弟子のバハーオッラー(1817~92年)である。バーブとともに投獄されたが、貴族の家系で宮中に縁故があったため、命は助けられた。しかし、ペルシャからは追放され、オスマン=トルコ領内を転々とする亡命生活を送り、1868年に現イスラエルのアッカにたどり着き、布教の地歩を固めた。教義について『世界宗教大辞典』(山折哲雄監修、平凡社)では、「すべての宗教の根源は1つであるとされ、人類の平和と統一を究極の目的とし、あらゆる偏見の除去、両性の平等、科学と宗教の調和が説かれ、諸宗教の要素を取り入れた普遍的新宗教」と説明されている。
世界遺産に登録されているのは、アッカに残るバハーオッラーの廟、ハイファのカルメル山の斜面に作られたバーブの廟である。カルメル山は、急な斜面全体が広大な庭園となっており、幾何学的に構成された植栽やテラスなどが、バハイ教のシンボルマークである九芒星をかたどった花壇などで装飾されている。その他、教団の行政機関や資料館などの建物や碑が配置され、26の建物が世界遺産に登録されている。新宗教の建造物としては初の世界遺産登録となった。
2012年に制作された、モフセン・マフマルバフの映画『庭師』(The Gardener)は、バハイ教を主題としており、カルメル山の庭園で撮影されている。