エルサレムの旧市街とその城壁群*

エルサレムの旧市街地はユダヤ教キリスト教イスラーム、それぞれにとっての聖地であり、歴史を通してその領有権が争われてきた。

まず、ユダヤ教徒にとってこの地はかつての王国の首都であり、ソロモンが建立した第一神殿、またバビロン捕囚後に再建された第二神殿があった場所である。現在は、ヘロデ大王(在位前37‐前4年)の建立した神殿の一部とみられる壁が残っており、西壁には第一神殿の遺構があると考えられている。この西壁に向かって神殿が失われたことを嘆くユダヤ人の姿から、この壁は「嘆きの壁」として知られるようになった。この地を追われ世界各国に散らばらざるをえなかったユダヤ人たちにとって、エルサレムは「約束の地」の象徴でもある。

キリスト教徒にとって、この地は新約聖書で描かれるイエスの生涯と深くかかわる場所である。イエスはこの地で弟子の裏切りにあい、死刑に処された。旧市街地にはイエスが十字架を背負って歩んだ「苦難の道」があり、十字架に架けられたとされる場所には現在聖墳墓教会が建っている。

ムスリムにとって、エルサレムはメッカメディナに継ぐ第三の聖都である。中心となるのは岩のドームで、これはムハンマドの死後、ムハンマドの昇天(ミーラージュ)の舞台となった聖石を中心にして建てられた。昇天(ミーラージュ)とは、ムハンマドが天使ガブリエルに連れられ天馬に乗ってメッカからエルサレムへと旅し、この聖石から光のはしごを登って昇天したとされる出来事を指す。

このように3つの宗教伝統が交差するこの地は、現代においてもその帰属をめぐる問題が絶えない。なぜ今日においてもエルサレムの帰属が大きな問題となっているのかを理解するためには、政治的知識と併せて、こうした宗教文化の知識が必要となる。

参考文献リスト

UNESCOのページ

http://whc.unesco.org/en/list/148/gallery/

CERC「映画と世界遺産」のサイト

エルサレムの旧市街とその城壁群は映画『キングダム・オブ・ヘブン』『最後の誘惑』『パッション』の舞台となっています。またエルサレムの嘆きの壁は映画『約束の旅路』に登場します。