オスン-オソボ聖林

西アフリカ最大の民族集団の一つであるヨルバ人の世界観を反映する聖林と見なされ、50年以上にわたってオーストリア人の芸術家スーザン・ヴェンゲル(1915-2009)がヨルバ宗教や信仰儀礼の消失を防ぐために起こした活動をうけて、2005年に世界遺産となった。

南ナイジェリアにあるオスン-オソボ聖林にはヨルバ人にとっての豊穣の女神オスンが住んでいると信じられており、密林の中には、神々を讃える祭壇や礼拝所が点在している。ヨルバの神々はオリサと呼ばれ、1,700もの神々がいるとされている。昔は各ヨルバ集落には神々の居場所と考えられていた聖林が付属していたが、現在ではオソボ市の聖林しか残っていない。オスン-オソボ聖林はヨルバ民族のシンボルとして、毎年世界中から何千人もの巡礼者や観光客が訪れている。

オスン-オソボ聖林には40程度の神殿があり、林を流れるオスン川沿いの9つの聖なるスポットでもオスン女神が崇拝されている。オスン川の水が癒しや豊穣を与えてくれると考えられ、オスン川の魚は女神オスンの使者と信じられている。ヨルバ神話によると、オソボ集落の創立者が450年前にオスン川の周辺に村を作り始めたとき、木が川に倒れ、女神オスンを起こした。その後、女神は林に住んでいる霊や神々と同居するのは危険だと創立者に注意して、神殿を立ててくれたら、オソボの集落の守護神になると約束したという。それ以来、毎年7月末頃に12日間かけて、オスン-オソボの創始者とオソボのヨルバ人の関係を讃える年中行事が行われている。 1950年に初めてオソボを訪れたスーザン・ヴェンゲルは保存状態が悪いオスン-オソボ聖林をみて、小像や聖跡の略奪を防ぐため、そして林で行われていた農業実験を止めるために、他のヨルバ人と「New Sacred Art」運動を始めた。1960年以来ヨルバ大祭司になったヴェンゲルと他の芸術家達は新しい大型の像や神殿を複数再建し、ヨルバ宗教文化を復興させた。

一民族の宗教文化が、海外の芸術家たちのまなざしを介して保護され復興されていった過程は、現代社会における民族や宗教のあり方を考える上でも興味深いものだろう。

参考文献リスト