タージ・マハルは、インド北部のウッタル・プラデッシュ州アグラ市のヤムナ川の川岸に建つ白亜の霊廟で、1983年に登録された文化遺産である。これはムガル帝国最盛期の第5代皇帝、シャー・ジャハーンが王妃ムムターズ・マハルの死を悼んで建てたものである。タージ・マハルの「タージ」は、妻の名「ムムターズ」が変化した名である。
ムガル帝国は、もともとイスラム圏のアフガニスタンからヒンドゥー教の国インドに進出したバーブルによって、1526年に建国されたイスラム帝国であり、第5代皇帝シャー・ジャハーンの時代がその全盛期であった。
1631年、シャー・ジャハーンは影響力の拡大に向けて、デカン高原の街ブルハーンプルに出陣していた。その際、遠征に同行していた妻のムムターズが産褥熱(出産時の細菌感染による発熱)によって亡くなる。その死の間際、妃は後世に残る美しい廟の建設を望み、そのため皇帝は1632年から約22年かけてタージ・マハルを造営し、最愛の妃の願いを実現したのだという。
その造営には皇帝に仕えたイラン人建築家ウスタド・アフマド・ラホーリーが関わっている。彼は国内外から招集された数千人にも上る工匠、大理石職人、モザイク職人、装飾職人をまとめ、インド全土や中央アジアから調達した建築資材を惜しげもなく使って建設を指揮したとされる。その費用や詳細は定かではないものの、人材と財力とを注ぎ込んで着工されたタージ・マハルは、ムガル建築の最高傑作といえる。
デリーにあるフマユーン廟をモデルに造られたタージ・マハルは、全体が白大理石で建てられ、一辺95mの正方形の基壇上に、四隅に高さ42mのミナレット(尖塔)が建ち、中央に高さ58mの大ドームをもつ墓廟がそびえる構造となっている。大ドームの四方にはインド建築特有の傘をかぶったようなチャハトリ(小楼)が置かれ、中央のドーム頂部には真鍮の頂華が載る。ドームで覆われる八角形の主室にはシャー・ジャハーンとムムターズ・マハルの参拝用の墓石が設置されている(実際の墓室は地下に置かれている)。また、廟の左右には全く同じ形の赤色砂岩の建築物が立ち、西側は礼拝のためのマスジド、東側は広間を備える集会所となっている。
タージ・マハルにはイスラム建築の様式が随所に見て取れる。墓廟の白大理石の外壁にはアラビア文字の装飾で『コーラン』の章句が刻まれ、建物全体に施された花などの文様は、人物や動物表現が避けられたために幾何学文様や植物文様が発達したイスラム美術ならではのものである。
また、左右対称性を重んじて設計されているところにもイスラム建築の様式美をうかがうことができる。墓廟は四方どこから見ても対称となるように造られており、『コーラン』に登場する「天上の楽園」を表現して造られた、ペルシャ風の前庭(チャハルバーグ)も左右対称の造りとなっている。前庭の水路には白亜の霊廟が逆さまに映し出され、過去の繁栄をうかがわせる優美な姿を見せている。
・日高健一郎監訳(2014)『世界遺産百科―全981のユネスコ世界遺産』柊風社
・小学館(2010)『NHK世界遺産100 No.35 「イスラムの栄華」タージ・マハル』小学館
UNESCOのページ
http://whc.unesco.org/en/list/252/gallery/
Google Arts & Cultureのページ
https://artsandculture.google.com/search?q=taji%20mahal&hl=ja