グラーツ市歴史地区とエッゲンベルク城

オーストリア南部の都市グラーツはゲルマン文化圏の南端に位置し、バルカン半島や地中海(特にイタリア)の芸術・建築文化の影響も受けながら発展してきた。バーベンベルク家の統治下にあった12世紀、グラーツは既に商都として栄え、1281年にはハプスブルク家のルドルフ1世により通行税と裁判権に関する特権が与えられた。以来、グラーツは同家の支配下に置かれ、1438年、フリードリヒ3世が居城を築いたのを契機に急速な発展を遂げた。

【主要な宗教施設】

フリードリヒ3世は、城の向かいにあったロマネスク様式の聖エギディウス教会に付属する形で、後期ゴシック様式の大聖堂を24年かけて完成させた(1438~64年)。内部はトマス・フォン・ウィラッハによる「神の罰」などのフレスコ画で飾られている。聖堂の南側の壁面には「苦難の絵」が描かれているが、これは、1480年にオーストリア南部を襲ったペスト、トルコ軍の脅威、イナゴの害を表現したもの。同聖堂はその後200年の間、カトリック改革(対抗宗教改革)の拠点として機能し、1786年に司教座がゼッカからグラーツに移された後、エギディウス聖堂は司教座教会となった。

大聖堂の隣には、1614年に建設が開始されたフェルディナンド2世の霊廟が立つ。1714年に、バロック建築の巨匠ヨハン・フィッシャー・フォン・エアラッハが手掛けた内装が完成した。聖母子像など、天井や壁はフレスコ画で飾られ、随所に細密な彫刻が施されている。

1239年に建設されたフランシスコ会修道院は堅牢な塔を擁している。これはバルカン半島に隣接するグラーツが、16世紀を通じてオスマン=トルコ軍の脅威にさらされていたことから、17世紀に市当局の命令によって建造されたもの。軍事的な意味合いを多分に含んでいる。

1572年に建設されたイエズス会の神学校は、ドイツ語圏初のルネサンス様式の建造物で、後にバロック様式に改築されることなく保存された。1773年の* イエズス会解散令によって、大神学校は行政の監理下に置かれたが、神学校の所蔵品を貴重な文化財と認識したマリア・テレジアの命により、図書館は大講堂と劇場として保護された。装飾品や家具はロココから古典派様式への移行期の傑出した作品がそろっており、現在も資料館に展示されている。

聖パウロ修道会によって1714年に建造されたマリアトロスト・バシリカ教会は、2つの尖塔を有するバロック式の豪奢な教会である。後にフランシスコ会によって管理されるようになった。マリアの奇跡を信じる人々の巡礼地として知られる。

市教区教会は、16世紀に小さなゴシック式の聖堂として建てられた後、ドミニコ会修道院として増改築が重ねられた。戦時中に空爆による被害を受け、戦後再建された。ステンドグラスを作成したビルクレは、ナチスによる迫害の経験から、ステンドグラスのキリストを迫害する者たちの図像の中に、ヒトラーとムッソリーニの姿を描き込んだという。

城塞(シュロスベルク)には、街のシンボルである13世紀に建てられた塔(1712年以降は時計台)がそびえる。聖堂などはないが、ハッカーのライオンと呼ばれるライオン像は、1809年にフランス軍に包囲された城塞を数十人の部下とともに何か月も守り抜いたハッカー男爵を顕彰する目的で造られた。また、1554~1558年の間に掘られた井戸は、トルコ軍の捕虜が採掘に当たったことから、後に「トルコ人の井戸」と呼ばれるようになった。

エッゲンベルク城は、一介の地方貴族から宮廷顧問にまで上り詰めたヨハン・ウルリッヒ・エッゲンベルク公が宇宙や時空をテーマに1625年に建設させたものである。天文学に造詣が深かった公は、暦にちなみ、4つの塔、12の門、24の部屋、52の扉、365の窓を備える城を建てた。なお、エッゲンベルク城は、現在、美術館として運営されており、「日本の間」には、大阪城を描いた屏風絵が展示されている。史料と照合した結果、イエズス会宣教師が持ち帰ったものとする説が有力視されている。

* イエズス会解散令: 17~18世紀にかけて、ブルボン家やハプスブルク家などヨーロッパの王族・貴族は、イエズス会が教皇への絶対的な忠誠を誓い、皇帝や国王には華美な生活態度を改めるよう迫り、支配階級の子弟に徹底した道徳教育を施そうとすることに反発を募らせていた。欧州列強の王室が揃って、イエズス会を解散するよう教皇に圧力をかけたことから、教皇クレメンス14世は、やむなく1773年にイエズス会に解散を命じ、イエズス会はこれに従った。この活動停止は、1814年にピオ7世によって活動を再認可されるまで続いた。

参考文献

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/catholic/graz/graz1

教会の点在する町並み

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/catholic/graz/graz3

城塞(時計台)

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/catholic/graz/graz4

城塞(ハッカーのライオン)

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/catholic/graz/graz5

城塞(トルコ人の井戸周辺)

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/catholic/graz/graz6

城塞(トルコ人の井戸)

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/catholic/graz/graz7

エッゲンベルク城

https://sites.google.com/site/cercreligiousculture/world-religions/christianity/catholic/graz/graz8

エッゲンベルク城