日光の社寺*

「日光の社寺」は、栃木県の日光市にある二荒山神社、東照宮、輪王寺の二社一寺とその境内地からなっている。現在では、徳川家康を祀る日光東照宮で有名な日光であるが、かつては修験の霊場(766年に勝道上人によって開山)として栄えていた。明治期の神仏分離令によって、東照宮、二荒山神社、輪王寺の三ヶ所が分離され「二社一寺」となったが、それ以前は、「日光山」として総称されており、室町時代には、数百の僧坊が立ち並ぶ霊場として全盛期を迎えていた。その後、一時は衰退したものの、家康の遺言によって再建され、1999年に二社一寺とそれらを取り巻く自然環境が世界遺産に登録された。世界遺産には、江戸幕府の初代将軍徳川家康(1542~1616)を祀る東照宮の陽明門や三代将軍家光(1604~51)の霊廟がある輪王寺の大猷院などの国宝9棟、二荒山神社の朱塗が美しい神橋などの重要文化財94棟の計103棟の建造物群が含まれている。

【霊場の歴史】

霊場としての日光の始まりは、奈良時代末までさかのぼることができる。当時、勝道上人が修行の場を求め男体山(当時は「補陀落山」、平安時代になると「二荒山」と呼ばれるように)を登った際、川の合流点に山の神様を拝む場所として、四本竜寺(のちの輪王寺)を建て、のちに本宮神社を、中禅寺湖のほとりに中宮を、頂上に奥宮を建てた。開山以降、日光は神仏習合の霊場として栄え、関東一の修験の霊場となっていった。

・江戸期

元和3年(1617)には、日光東照宮が建てられ、徳川家康が神として祀られた。これは家康の遺言によるものであり、「自身亡き後、遺体は久能山におさめ、一周忌を過ぎたのち、日光に小さなお堂を建てて祀るならば、日本の守り神となろう」といった遺志に沿っている。二代将軍家忠のもとで創建の準備が進み、2月には朝廷より「東照大権現」の神号を授かり、3月に主な社殿が完成すると、久能山から棺を移し、4月17日には東照大権現を祀る東照社が造られた。

三代将軍家光の時代には、社殿のほとんどが造り替えられ、そののち正保2年(1645)には朝廷から宮号が与えられ、これを機に、以降「東照宮」と呼称するようになる。その後も江戸期のうちに20回以上の修復が行われる。豪華で荘厳な社殿が現在に至るまでよく伝わっているのは、当時の幕府の保護政策によるものであるといえる。

1653年には家光の霊廟である大猷院霊廟が輪王寺に造営され、日光はさらに徳川幕府の崇敬を受けるようになる。当時日本が交流していた「通信国」である琉球、朝鮮から遣わされた朝鮮通信使も、寛永13年(1636)、寛永20年(1643)、明暦元年(1655)には日光山を訪れている。とりわけ、明暦元年の来訪の際には、東照宮のみならず大猷院にも322人の通信使が来ており、将軍の祀られている地として重要視されていたことがわかる。当時贈られた品々は現在も輪王寺に所蔵され、当時の朝鮮文化を知ることのできる、貴重なものとなっている。

・明治期

明治時代になると神仏分離政策によって、ひとつにまとまって「日光山」と呼ばれていた輪王寺・二荒山神社・東照宮は明確に分けられ、現在輪王寺の本堂にあたる三仏堂をはじめとして、二荒山神社のもとにあった建物や祭礼の道具のいくつかが輪王寺に移転されることとなった。

【主要な建造物】

・輪王寺

創建は最も古く、767年に勝道上人によって創建された四本竜寺に起源をもつとされる。日光山の中心寺院として発展し、江戸時代には、比叡山や寛永寺と並ぶ天台宗の有力三カ寺の一つとなった。

・二荒山神社

二荒山神社は、二荒山(男体山)を御神体と仰ぎ山岳信仰の中心地として長年崇拝されてきた。男体山、女峰山、太郎山の日光三山それぞれを神として祀り、その境内地とするほか、華厳滝やいろは坂も神域に含んでいる。

・東照宮

東照宮は建築・美術という観点からも高く評価される。「権現造」の建築様式や、彫刻、彩色等の建築装飾の技法は、その後の建築様式に大きな影響を与えたという。権現造は、本殿と、まつりを行うための拝殿を、「石の間」と呼ばれる棟で連結させた建築様式であり、そのため「石の間造」とも呼ばれる。

また、装飾としてよく知られるものには、「眠り猫」や「三猿」がある。猿の彫刻は、神に仕える馬(神馬)を飼育する神厩舎の上にあるが、これは「猿は馬を病気から守る」という古来からの信仰にちなんでいる。この信仰は陰陽五行説から生じたとされており、馬は火であり、猿は水であることから、火を守る水、すなわり、馬を守る猿、という関係が成立したといわれている。馬屋にいる猿のうち、三猿として知られる最も有名な三匹の子猿は、「見ザル、聞かザル、言わザル」のポーズをとっている。家康公のお墓のある奥社への参詣道入口には、左甚五郎の作と伝えられる「眠り猫」の彫刻がある。寝ている猫の彫刻と、その裏面の飛び回る雀の彫刻とで一対となっており、「猫が寝ているので雀が遊べる」ということから、平和な時代の訪れを意味しているといわれている。

参考文献リスト

日光東照宮

華厳の滝

日光

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