ブラジリア

1960年にブラジルの新首都となった人口都市で、1987年に世界遺産登録された。モダニズム建築の巨匠であるル・コルビュジエの理念に基づき、ブラジル出身のルシオ・コスタが都市設計の総監督を務め、オスカー・ニーマイヤーが大統領官邸、国民会議議事堂や外務省、大聖堂など主要な建物の設計を行い、独特の景観を作り上げた。歴史的な価値が高く評価される世界遺産が多いなかで、20世紀後半に作られた人口都市が世界遺産に登録されたのはきわめて異例と言える。

ブラジリアの建築計画を打ち出したのは、1956年に大統領就任したジュセリーノ・クビシェツキである。彼は「50年の進歩を5年で」のスローガンを打ち出し、当時の急速な経済成長を追い風に、わずか4年あまりでの新都市建設と旧首都リオデジャネイロからの遷都を実現させた。それまで人口や産業が集中していた沿岸部から離れ、内陸部の高原地帯に突如として造られたこの人口都市は、上空から見ると翼を広げた飛行中の鳥のように見える形をしており、機首の部分に政府機関が集中し、翼の部分に居住区が分けられるなど、合理的な都市計画の下に設計されている。

ブラジルはカトリック国として知られるが、その歴史は15世紀末のポルトガルによるブラジル“発見”と植民地政策にさかのぼる。征服者の宗教として、支配の秩序維持を裏支えしたカトリックは、それまでの土着の信仰世界を半ば強制的にキリスト教へと塗り替えていった。その後ポルトガルからの独立を経て、1889年の共和制の確立によりカトリック教会は国教の地位を失うものの、これまで500年以上にわたりブラジルの政治や文化に深く根を下ろし、現在でも国民の半数以上がカトリック教徒である。

このようにブラジルで長い伝統を有するカトリック教会は、新都市ブラジリアにおいてはモダニズム建築と融合した独特の信仰空間を持つに至っている。なかでも著名なのは、ニーマイヤーが設計した、16本の白く反り返った柱が特徴的なブラジリア大聖堂である。コンクリートとガラスによって建てられたこの大聖堂は、キリストの茨の冠や祈りの手をかたどったとされ、側に建てられた鐘楼とあわせそれまでの伝統的な教会建築とは全く異なる外観を持つ。水盤で囲まれた大聖堂には地下を通るスロープからアプローチすることになるが、暗い通路から内部に入った途端に広がるのは、柱の間から太陽光を取り込む青と白のステンドグラスや、天井から吊り下がる天使像が作り出す荘厳な祈りの空間である。この大聖堂は都市の中心部に位置しており、ブラジリアのみならずブラジルという国のシンボルとして、多くの観光客を集めている。