フランス北東部、ライン川を挟んでドイツと隣接するストラスブールは、ワインの生産で知られるアルザス地方の中心都市である。古代ローマ軍の駐屯地を起源とする旧市街グラン・ディルが1988年に「ストラスブールのグラン・ディル」として世界遺産に登録されたのち、2017年には新市街のノイシュタットまでその範囲が拡大し、「ストラスブールのグラン・ディルとノイシュタット」に名称変更され、現在ではストラスブールの街一帯が世界遺産となっている。
◆グラン・ディルとノイシュタット
旧市街のグラン・ディルはストラスブール・ノートルダム大聖堂を中心とする街で、ライン川の支流であるイル川に囲まれ孤立したような地形になっていることから、“大きな島”を意味する「グラン・ディル」と名付けられている。その立地から、フランスとドイツの文化的交流の場となり、12世紀後半にパリで生まれたゴシック建築の様式は、この地からドイツへと伝播したと言われている。また、グラン・ディルの一区画にあるプティット・フランスは入り組むイル川とアルザス伝統の木組みの家々が特徴的な、16~17世紀の古い町並みが保存された地区である。
一方でノイシュタットは、ストラスブールがドイツ領シュトラスブルクだった普仏戦争後の1871年~第一次世界大戦までの1918年に建設された新市街である。広い直線道路、ネオゴシック様式の教会やドイツ風の建造物、フランスとドイツの和解のシンボルとして建てられた、EU本会議場(ルイーズワイスビル)が置かれるガラス張りのヨーロッパ宮など、グラン・ディルとは異なった機能的で開放的な佇まいの街並みを見ることができる。
◆ノートルダム大聖堂
ストラスブールのノートルダム大聖堂は高さ142mの尖塔を持つカトリックの大聖堂で、その一部には建造当初11世紀のロマネスク様式も残るものの、現在は1176年から1439年にかけて築造されたゴシック建築の傑作という点でよく知られており、外観の尖塔と精巧な彫刻や、内部のバラ窓、ステンドグラスなどが特徴的である。堂内にある天文時計は高さ18mの、世界的に見ても大規模なからくり時計であり、時間になると12使徒などを象った人形が動く仕掛けとなっている。天文時計の横の「天使の柱」は最後の審判を表現している。