グラナダのアルハンブラ宮殿、ヘネラリーフェ離宮、アルバイシン地区

グラナダのアルハンブラ宮殿、ヘネラリーフェ離宮、アルバイシン地区は、スペイン南部のグラナダに位置する文化遺産である。アルハンブラ宮殿とヘネラリーフェ離宮は隣接する2つの丘の上にあり、中世イスラーム建築の傑作と名高い。その眼下にあるアルバイシン地区はグラナダ市内でもっとも古い地区で、白壁を特色とするその景観はレコンキスタが終わった500年後の現在でもムーア人の町の特色を色濃く残し、それがアンダルシアの伝統建築と調和しながら、イスラーム王朝時代の面影を感じさせている。

◆グラナダにおけるイスラームの支配とレコンキスタ

 グラナダは、イベリア半島を800年近く支配してきたイスラーム勢力の終焉の地である。8世紀以来、北アフリカからイベリア半島まで勢力を伸ばしたイスラームに対して、主としてイベリア半島のスペイン人キリスト教徒がその支配に抵抗し、国土回復を目指す運動を起こした。その国土回復運動がレコンキスタであり、11世紀より活発になり、15世紀末にイスラームの覇権が終わるまで約 780年続いた。ムーア人とは、当時イベリア半島を支配していた北アフリカのイスラーム教徒を指す、ヨーロッパ人による呼称であった。

 

◆アルハンブラ宮殿とイスラーム建築・芸術

 イベリア半島におけるイスラームの領土は、13世紀にはグラナダ王国を残すのみとなっていた。その最後の砦として13世紀に建設が始まったのが、アルハンブラ宮殿である。城はおよそ170年かけて14世紀末に完成し、15世紀末にグラナダが陥落し、キリスト教徒に征服されるまでの約260年間にわたり、歴代の王たちは宮殿を増築し続けた。

赤褐色の石で築かれた城は、「赤い城」という意味の「アルハンブラ」と名付けられ、パティオと呼ばれる池や噴水を使った中庭を中心にできた宮殿は、その美しさから「イスラーム建築の華」・「水の宮殿」とも呼ばれる。

 かってスペインの地を支配したイスラームの王たちは、コーランに描かれた天井の楽園を、このアルハンブラに再現しようと試み、イスラーム芸術を結集させた。コーランには天国が「せせらぎがめぐる果樹園」として描かれている。アラビアや北アフリカを故郷にする沙漠の民にとって、水はあらゆる生命の象徴であった。アルハンブラにはそのようなイスラーム教徒にとってのオアシスへの憧れが反映されており、宮殿内の敷地に傾斜をつけることで、どこでも水が供給でき、水音を聞くことができるように設計されている。また、庭園における水鏡の技法は、後にタージ・マハルに継承された。

 また、一つ一つが完結しながら、無限にくり返され、からみ合うアラベスク紋様もイスラーム芸術の特徴であり、アルハンブラ宮殿の随所に見られる細工である。その紋様は、唯一の神アッラーの前では「すべては平等」と説く、イスラーム精神を表しているとされる。

・二姉妹の間

「蜂の巣」とも称されるこの間は、壁から天井まで装飾で埋め尽くされており、天井は預言者ムハンマドが神の啓示を受けた洞窟を現している。

特に、凹凸のある細かな部品が組み合わされてできている鍾乳石の飾りは、イスラム独特の立体模様である。

壁にはアラビア文字の周りに植物や幾何学的な図形が浮き彫りにされたアラベスク紋様が見られる。

・大使の間

18メートルの高さにある天蓋は満点の夜空を表しており、ヒマラヤスギの寄せ木細工に螺鈿がちりばめられている。

・ライオンの中庭

ライオンの中庭を囲む128本の柱は、ナツメヤシの林をイメージしている。この柱廊は、キリスト教の修道院から着想を得ており、イスラームとカトリック、2つの文化の重なり合いからは、スペインらしさの底にイスラームの世界が色濃く影を落としている様子が垣間見える。

◆ヘネラリーフェ離宮

アルハンブラ宮殿の東側にあるヘネラリーフェは、王族のための夏用の離宮で、イスラームの天国をイメージしたとされる庭園があり、こちらでもイスラーム芸術や文化の名残を見ることができる。


参考文献

TBS「世界遺産 THE WORLD HERITAGE」スペイン、最終アクセス2022年6月10

・小学館2010『小学館DVDマガジンNHK世界遺産100』No.33「ヨーロッパの城と宮殿ウェストミンスター寺院と修道院 ロンドン塔」小学館

アベンセラヘスの間

ライオンの中庭

ライオンの中庭(近景)

ナスル宮リンダラハの中庭

リンダラハのバルコニー天井

アルハンブラ宮殿から臨むアルバイシン地区