ヤヴォルとシフィドニツァの平和教会群

ポーランド南西部(シレジア)にあるルター派の教会。17世紀に建てられたヨーロッパ最大の木造宗教建築物である。木造教会はグウォグフにもう一つあったが、1758年に全焼してしまった。「平和教会」と呼ばれるきっかけはウェストファリア条約(Peace of Westphalia)に込められた宗教和議の思想だった。

30年続いたカトリックとプロテスタントによる宗教戦争(三十年戦争)が終結した1648年にウェストファリア条約が結ばれた。その際、アウクスブルク宗教和議の原則(教派属地権)が再確認され、その適用範囲がカトリック、ルター派のみならず改革派(主にカルヴァン主義の教会)にまで拡大した。それまで、カトリック教徒のハプスブルク君主国が支配していたシレジアではプロテスタント教徒が迫害され、自分の信仰を守る権利が許されていなかったが、ウェストファリア条約にサインしたハプスブルク家のフェルディナント3世は誠意を持って、ルター派の教会を建てることを承認した。ただし、その三つの教会がプロテスタントの砦になるのを防ぐために、フェルディナント3世は壊れやすい素材、木と土の伝統的技法によって1年間以内で建造するように命じた。そうした経緯のもと、ヤヴォルとシフィドニツァの地に建てられた平和教会群が建てられた。

平和教会群は建築的に貴重な建物である上、宗教的なシンボルでもある。抑圧されていたマイノリティだったシレジアのプロテスタント教徒はこの教会を自分の信仰の拠り所とし、また、長期にわたる苦難の歴史の成果であるとした。ルターの思想の中心には信仰義認論がある。つまり、神が人を義なる者と認めるのは、その人の正しいあり方や行為によるのではなく、ただ信仰によってのみであるというとらえ方である。この考え方によって、聖霊と三位一体に対する信仰が強化されたといわれる。ヤヴォルの教会は聖霊の祈りに基づいたもので、シフィドニツァの教会は三位一体の祈りに基づいたものである。

参考文献リスト