コインブラ大学―アルタとソフィア

コインブラには1139年から1255年まで首都が置かれ、町を見下ろす丘の上に建てられたサンタ・クルス修道院では高水準の神学教育が行われていた。しかし1290年に教皇ニコラウス4世がポルトガルに大学を創設する勅許を与えた際、大学はリスボンに設置される。その後、大学はリスボンとコインブラの間で幾度も移転を繰り返し、1537年にようやくコインブラに落ち着くこととなった。大学は6つの教会を基盤とし、国王ジョアン3世によって創始されたが、この点は、学者の自治により大学が創設された英国やイタリアなどとは異なる特徴である。

1537年に大学が置かれたアルカソヴァ宮殿を中心とするアルタ地区は大学街として発展し、学者と聖職者のみが居住する街とも言われた。サン・ミゲル聖堂は16世紀に王室の聖堂として建設されたもので、内部はイベリア半島特有のアズレージョ(青い文様の描かれたタイル)で飾られている。また、ジョアニナ図書館は18世紀に国王ジョアン5世によって建造されたもので、30万冊の蔵書を誇る。館内にはパイプオルガンが設置されており、天井や壁、柱などはフレスコ画で覆われ、書棚などにも金泥などでバロック装飾が施されている。

アルタ地区には1162年に建てられた旧大聖堂も残るが、ロマネスク様式のままに保存された教会堂は希少である。イスラム教徒の支配下にあったイベリア半島南部で培われた職人の技術により、装飾のモチーフは植物や動物(怪物)などが多く、聖書の場面など人間が登場する図柄は描かれていない。新大聖堂は16世紀にイエズス会により建設されたバロック様式の建物で、18世紀に旧大聖堂から司教座が移された。

丘の上のサンタ・クルス修道院から伸びるソフィア通り(ソフィア地区)には、16~17世紀にイエズス会によって多数の学寮(コレジオ)が建設された。現在は教会堂として使用されているカルモ(カルメル)学寮、グラサ(グレース)学寮などのほか、サン・ペドロ、サン・トマス、サン・ボナヴェントゥラなどの名を冠した学寮は19世紀に閉鎖されたが、現在も大学施設などとして用いられている。

参考文献