プランバナンの寺院遺跡群は、インドネシアのジャワ島中部に残る大規模なヒンドゥー建築の寺院を中心とした遺跡群であり、諸説あるが9世紀~10世紀に建設されたと言われる。ジョクジャカルタをはさんで西方に位置する仏教遺跡のボルブドゥール寺院と並び、インドネシアでは最大規模の遺跡として知られる。
大乗仏教を信奉するシャイレーンドラ王国によって建設されたボルブドゥール寺院と異なり、ヒンドゥー教を信奉したマタラム王国によって作られたプランバナンの寺院群は、シヴァ、ブラフマー、ビシュヌのヒンドゥー教における三大神を祀った三基の聖堂を中心に、大小240を超える多くの祠堂によって構成されていた。特に現存するシヴァ神を祀る中央の祠堂は高さ47メートルを誇り、内部には高さ3メートルのシヴァ神像が安置されている。この像はマタラム王国6代目のラカイ・ピカタン王の肖像とも言われ、この王の遺骨はシヴァ像の真下の地下深くに納められているという。またこのシヴァ神の祠堂には、シヴァ神の妻であるドゥルガー女神像と、息子のガネーシャ像も安置されている。このドゥルガー女神像は、伝説上の王女ロロ・ジョングランの肖像とも伝えられており、プランバナン寺院自体が「ロロ・ジョングラン」という別名を持つ。
さらにシヴァ神祠堂の廻廊には、古代インドのヒンドゥー教叙事詩『ラーマーヤナ』の物語を表現した浮彫り(レリーフ)が装飾され、ヴィシュヌ神の化身であるラーマとその妻シーターとの一代記が、緻密な石造の彫刻で現在にも伝えられている。
ボルブドゥール寺院と並び中部ジャワ期の美術を代表するこの遺跡の周辺には、ほかにも仏教寺院であるセウ寺院やプラオサン寺院などが残っており、インドからもたらされたヒンドゥー教文化と仏教文化が、この地においてともに広まっていたことがよくわかる。
参考文献リスト :
伊東照司2007『東南アジア美術史』雄山閣