キージ島の木造教会と集落

キージ島は、フィンランドとの国境に近いカレリヤ地方のオネガ湖に浮かぶ小島。古くから島に居住していた先住民(カレリヤ人、ヴェプス人)の言葉で、「キージ」とは「祭りの場」を意味し、自然崇拝を行う人々によって神聖視された場所であることがうかがえる。島には12世紀頃、ロシア人が入植し、徐々にロシア正教が浸透していった。現存する最古の記録によれば、既に16世紀には2つの木造教会があったとされるが、これらの教会は1693年の落雷や老朽化により1度は倒壊し、再び同じ場所に建造されたものが今日まで保存されている。

多角形の囲いの中に、職人の手作業で建造された2つの教会が建つ。北側の大きい教会が「夏の教会」とされるプレオブラジェンスカヤ教会、南側の小さい教会が「冬の教会」のポクロフスカヤ教会である。「夏の教会」は、現地の教区民だけでなく、他の地方から休暇に訪れる正教徒がミサに与るために用いられてきた。「冬の教会」はペチカ(暖房)を備えている。2つの教会の間には、1862年に再建された八角形の鐘楼が建っている。

小さな22のタマネギ型の天蓋が載ったプレオブラジェンスカヤ教会は1714年に再建された。教会は6層のピラミッド状の構造で、高さは37mあるが、建造には1本の釘も使われていない。教会は無名の職人によって建造されたものであるが、雨樋のかわりに天蓋の庇に雨水を集約して排出するなど、緻密に計算された技術も特筆すべきものである。教会内には1759年にイコノスタシスが設置され、17~18世紀に描かれたとみられる102のイコンが飾られている。1764年に建造されたポクロフスカヤ教会は簡素な造りで、中央にそびえ立つ27mの高さのドームの周囲を8つの小型の天蓋が囲んでいる。

1970年代に、政令により、カレリヤ地方をはじめとするロシア北部の木造建築がキージ島に移築され、オープンエアの建築史博物館が作られた。12の宗教的建造物のほか、農家、風車など、民衆の生活の様子を今に伝える木造建造物が展示され、多くの観光客が訪問する名所となっている。

参考文献