原子は日常生活の体験からは分からない不思議な性質を持っています。原子は光を出したり吸収したりします。コラム84でも述べたように,光は波です。水面の波を思い浮かべて下さい。波の高いところと,高いところの間隔を波長と呼びます。光はいろいろな波長のものがあります。光の波長が違うと色が違って見えます。ところが,光はもう一つの性質を持っています。一個,二個と個数を数えられるのです。つまり,「粒子」としての性質を持っているのです(図94.1)。
原子の周りに電子が回っているといいましたが,これもエネルギーを持っています。高いところにある物はより大きなエネルギーを持っていて,下に落ちるときに別のエネルギーに変わります。例えば,水力発電を考えると高いところにある水が流れ落ちることによって,水車を回し電気をつくります。高い所にある水のエネルギーが流れの(運動)エネルギーとなり,水車を回して電気エネルギーに変わるのです。
原子の中にある電子もエネルギーを持っています。電子の持つエネルギーは,建物の一階,二階のように飛び飛びの高さの値を持ちます(図94.2)。この高さの差に相当するエネルギーを持った光の「粒子」が来ると電子は光を吸収して高い階に上がります。高い階にある電子が低い階に降りるときには,エネルギー差に相当する光の「粒子」を出してもとに戻ります。光の「粒子」の持つエネルギーは,波長によって決まります。ですから,このとき出る光は決まった波長になります。水銀ランプやナトリウムランプでは,水銀やナトリウムの電子の持つエネルギー差に相当する光を放出しているのです。
原子や電子のような小さな物体はこのように目に見えるものと違うふるまいをします。このような小さの物質は「量子力学」という物理の理論体系にしたがいます。量子力学が確立したのは,1925年です。オーストリアのシュレディンガー(Erwin Rudolf Josef Alexander Schrödinger, 1887~1961)とドイツのハイゼンベルク(Werner Karl Heisenberg, 1901~1976)によって独立に提案されたものです(図94.3)。二人の提案したものは,一見すると全く別の数学の形を使って記述されていました。その後,両者は同等のものであることがわかりました。
量子力学は,その後化学,電子工学,原子力工学の発展になくてはならないものになりました。
関連動画: 「 黒体放射と原子から出る光」(6分05秒)
関連サイト: 「第7回 原子から出る光」