教員免許状更新講習で電磁誘導についてもっと説明してほしいとの要望が多く寄せれます。電磁誘導についての説明がほしいとのご要望が毎年のように寄せられます。しかし,限られた時間でどれだけ述べるかについて迷ってしまいます。磁気に関する性質は,正直言ってわたしにとってもとても不思議な現象なのです。
まず,コイルに電流を流すということから始めましょう。コイルは電線を筒に巻いたものです。コイルに電流を流した場合を考える前にまっすぐな(直線上の伸びた)電線があって電流が流れている場合を考えましょう。このとき,電線のまわりには電線を取り巻くような渦巻状の磁力線ができます(図63.1)。電線といっても,コンセントから家電製品につなぐように2本ペアになったものではなく,電池に繋いだ一本の線をイメージしてください。磁力線というのは,次項(コラム64)で述べるようにファラデーによって考えられたものです。このとき,磁場は同心円の接線の方向になっていますが,磁場の向きに電流と平行に置いた右ねじを回した時に右ねじが進む向きが電流の向きになります。
この同心円上の円周の長さと磁場(磁界ともいう)の強さをかけたものは,電流の強さに比例することが知られています(「アンペールの法則」といいます)。このようなるという「どのように」ということは,古典物理学の範囲でわかっていますが,それが「なぜ」そうなるかということについては説明できていません。ある意味では,物理学は「なぜ」ではなく,「どのように」を説明するものなのです。コイルの電線のまわりもどうように磁力線ができます。これらを重ねあわせると磁石のようになるのです。中に鉄心など磁石にくっつくもの(磁性体といいます)を入れると磁場が強くなります。これが電磁石です。
さて,コイルに電流を流すと磁場ができましたが,逆に磁場が変化すると電流が流れます。ただし磁場をかけるだけではだめで,磁場の強さが変わると電流が生じるのです。これを示すための実験が実験38です。アクリルパイプの周りにコイルが2,500回巻いてあります。そのコイルにLEDがついています。アクリルパイプの中で磁石を揺するとLEDが点灯します。コイルの中に磁石を入れただけでは電流が流れないのですが,磁石を往復させると電気が生じでLEDが点灯したのです。正確には,コイルの両端の電圧がコイルと通り抜ける磁力線の強さの変化の速さに比例するのです。この時,電流の流れる向きは電流によって生じた磁場が磁場の変化を緩和する向きになります(図63.2)。これが電磁誘導の法則です。
さて,コイルを固定している状態で磁場ができる場合もありますが,一定の磁場の中を電線が動いた場合も電流が流れます。電線の方向,磁場の向きが垂直で,磁場と電線の向き垂直に電線を動かすと電流が流れます。この時,右手の親指と人差し指と中指が互いに垂直にたてると,人差し指の向きが磁力線の向き,親指が導体の動いた向き,中指が導体に発生する電流の向きという関係(図63.3)が流れる関係が成り立つということです。これをフレミングの右手の法則といいます。この指を使ったのは,単に電流,導体の動く方向,磁場がどの向きになるかを覚える方法にすぎません。
電流を固定して,磁場の中に置くと導体は力を受けます。このとき,左手の人差し指が磁場の方向,中指が電流の方向とすると,導体にかかる力は親指の方向になります。これをフレミングの左手の法則といいます(図63.4)。
また,磁場中を電気を帯びた粒子(荷電粒子)が磁場と垂直な方向に運動すると,磁場と運動方向に垂直な方向に力を受けます。このときは,右手を立てて粒子の動く方向を中指,磁場の向きを人差し指,粒子にかかる力を親指方向とします。この力をローレンツ力といいます(図63.5)。フレミングの右手の法則,左手の法則のように電線が受ける力や電線を動かした時の電流の向きは,電流が電子の流れであることを考えるとローレンツ力をもとに導くことができます。
どのような大きさになるかについてはコラム64を参照してください(コラム64は少し難しい)。フレミングの右手の法則,左手の法則というのは,歴史の年号を覚えるための語呂合わせ周期表を覚えるための語呂合わせと同じで単に記憶する手段です。私自身はフレミングの法則を何も見ずに言えません。高校時代に記憶しなかったからです。このことについては,コラム65で述べます。
何れにしては,物理の法則は「どのように」を記述することにすぎません。しかし,これらの法則をMaxwellは数式にすることによって,大きな発見につながりました。Maxwellが電磁波の存在を予言し,電波通信などの基礎となるとともに,相対論に発展にも大きな寄与をしています。