私が小学校の頃は,モーターやラジオなどでよく遊んだものです。モーターは電気で動くことを知っていました。当時,ゲルマニウムラジオやトランジスタラジオを作って遊んだこともあります。ラジオは,スピーカーやイヤホンで音を出すことも知っていました。さらに,スピーカーやイヤアホンも電気信号で動くことを知っていました。
ある時,学校で同級生が「鼻がつまって耳が聞こえなくなった時に,口にイヤホンを入れたら音を聞くことができた」と話していました。そこで,ラジオのイヤホン端子にモーターを繋げば,電気信号でモーターの軸が振動するのではないかと考えました。さらに,モーターの軸を歯につけると振動で音が聞こえるのではないかと考えました。家のトランジスタラジオを使って実験してみました。予想したとおり,ラジオの音を聞くことが出来ました(図116.1)。
参考サイト: 「骨伝導スピーカーをつくってみよう 」
ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven, 1770~1827)は晩年耳が聞こえなくなってから,タクトを口に加えてピアノに押し当てて音を聞いていたといいます。彼は骨伝導で音を聞いていたのです。図116.3に耳の構造を示します。鼓膜耳は外耳,中耳,内耳に分けられます。外耳は耳(じ)介(かい)と外耳道からなります。それぞれ,空気を伝わった音を集め,鼓膜(こまく)まで伝える働きをします。鼓膜の内側には耳小骨とよばれる米粒大の3つの骨がつながっています。鼓膜側から槌(つち)骨(こつ),砧(きぬた)骨(こつ),鐙(あぶみ)骨(こつ)とよばれています。これは,鼓膜に伝わった振動を内耳のリンパ液に伝える働きをします。このとき,鼓膜と鐙骨の面積比によって,伝わる圧力が約22倍になります。物理的な増幅器の役割をしているわけです。ベートーヴェンは耳小骨のはたらきが悪くなる「耳硬化症」とよばれる病気に罹っていたといわれています。内耳が正常だったので,タクトをピアノに押し当てると骨を通じて内耳に伝わって音が聞こえたのです。
内耳は,蝸牛(かぎゅう)(中学校・高校では「うずまき管」と教えています。蝸牛とはかたつむりのことです),三半規管,前庭からなっています。三半規管はよく知られているように平衡感覚をつかさどります。音を直接感知するのは蝸牛です。耳小骨の振動は蝸牛内のリンパ液を振動させます。音の周波数によって音を感知する部分が異なっています。このことから音の高さを知ることができます。年齢とともに高音が聞こえにくくなってきます。モスキート音という比較的高い音は高校生には聞こえますが,先生たちには聞こえないことがあります。
音が聞こえにくくなったら補聴器を使います。しかし,音の聞こえ方は周波数によって違います。したがって,個人ごとに調整する必要があります。したがって,補聴器は専門店または医療機関で調整する必要があります。