学生時代,物理学科の学生として仕切りに言われてことがあります。それは,「物理は式で計算できるだけではだめです。『物理的意味』を知ることが大切です」ということです。「物理的意味」というのは,式で答えがでるだけではなく,その意味を言葉や図で説明できるということとほぼ同じだと考えていいかと思います。とにかく,イメージをもって,それが妥当かどうかということを考えられるようになりなさいということです。しかし,熱力学ではそれが通じません。
熱力学では,難しい数式がでてくるだけではなく,ある実験結果がわかると,別の実験結果を説明できることがあるのです。それは,簡単な言葉や直感では分からないこともあるのです。例えば,理想気体の状態方程式(コラム21)が成り立つとすると,内部エネルギー(物体が内部にもつエネルギー)は温度だけの関数だということが数式で証明されてしまうのです。このことは,実は高等学校の教科書にも書いてあります。しかし,そこでは,分子の運動ということを仮定するとともに,理想気体の状態方程式を用いてもとめています。しかし,昔の熱力学では,分子とか原子の存在を仮定しなくても,結果が出せるのです。どうして,そのようなことができるのか?私にとってもとても不思議なことです。未だによくわかりません。
もっとも,学生時代から物理法則が数式で記述できて,様々な現象を再現できる事自体とても不思議で仕方ありませんでした。今はある程度そのことに慣れてしまいましたが,どうしてそんなに単純なのか今でも不思議な気持ちは変わりません。