以前教員免許状更新講習で,「なぜIHで感電しないのか?」といった疑問が,ある年のテストの答案(意見・提案)に書かれていました。テストの答案に書く前に質問していただければ,他に同じ疑問を持った人にもわかってもらえたのにと少し残念に思いました。質問は質問者自身のためにもなりますが,他の受講者や講師にとってもありがたいものです。それはともかく,電気というと「感電が怖い」と思っている人が多いのですね。「IHの上に乗ったお鍋の中で電流は流れますが,外に出てこないので触っても大丈夫ですよ」と言いたいところですが,触ってはいけませんよ。感電はしませんがやけどをしてしまいます。
高電圧の電流が流れているのに,むき出しになっている金属が身の回りにあります。それは,電車が走っている鉄道のレールです。多くの電車は架線とレールから電気をとっています。したがって,レールには電流が流れているのです。日本では電車には直流と交流ともに使われています。直流の場合は1500 Vが主流です。世界的には600,750,1500,3000 Vのものがあります。新幹線は,25,000 Vの交流です。北陸本線の敦賀~糸魚川間は交流です。在来線で交流の場合は20,000 Vです。レールに電気は流れていますが,踏切でレールを踏んでも大丈夫です。雨の日に濡れた靴で線路を両足で乗ったら,感電するように思えます。でも,感電したという話を聞いたことはありません。なぜでしょうか。人間の体も電気を通します。でも,鉄に比べて電気抵抗が極めて高いのです。ですから,線路の上に両足で乗っかっても,電気はほとんどレールを流れ,人間の体の中はほとんど電気が通らないのです。抵抗を並列に繋いだばあい,どのくらいの割合で電流がながれるかということの応用です。物理の授業でももっとこのような課題を考えさせたら面白いのにと思います。
私が小学校の頃,小学生向けの科学雑誌に,「電線に雀がとまっても,なぜ感電しないのか?」ということが書いてありました。私達の家庭に配電しているいわゆる電信柱で支えられている「配電線」は現在では合成樹脂で被覆しています。しかし,数十年前までは被覆していませんでした。そのため,そのようなことが書いてあったのです。現在でも,送電線(高圧線)の電線は被覆していません。交流の電線に被覆すると,被覆している樹脂の分子が揺さぶられて熱の形でエネルギーが散逸するためです。但し,海底を通す送電線には被覆が必要です。そのため,本州と北海道,本州と四国の間は,直流に変換した電流を被覆した電線で送っています。