仕事とは「力に移動距離をかけたもの」です。仕事に変わり得るものをエネルギーといいます。図10.1の男の子は力をかけて自分の体を持ち上げているので,エネルギーを使って仕事をしたことになります。図10.1の女の子はぶら下がっているだけなので仕事はしていません。でも,体の中では血液が流れたり,内蔵の筋肉が動いたりと分子レベルで動くことでエネルギーを使い仕事をしています。そのため,人間はじっとしていてもエネルギーを消費しているのです。
ところで「仕事」の定義を式で表すと,
(仕事)=(力の大きさ)✕(移動距離) (10.1)
となります。式で示されても,ピントこないかもしれません。何でこんな式で表すのか?といわれて,説明できるでしょうか。仕事を上の式で表したのは「定義」です。「定義」というのは,決め事です。決め事だから,「このようになります,覚えてください」といわれても文句はいえません。でも,「覚えなさい」と言われることは,なぜ?どうして?と考える人にとって,とても気持ちが悪いことでしょう。
なぜそう定義しているか?答えを先に言ってしまうと,「そのように定義すると都合が良いから」です。都合が良いということは納得できる現象があるということです。そのような現象として,小学校で習う「てこ」(梃子)を考えるとわかりやすいのではないかと思います。
てこを使うと小さな力で大きな力を与えることができます。モンキーレンチなどでナットを締めるのも,てこの原理を応用したものです(図10.2)。
ドライバーも,ハンドルの部分が先端部分よりも太くなっているために比較的小さな力でネジを締めることができるのです。てこに対して
(作用点に働く力)✕(作用点と支点の間の距離)
=(力点に働く力)✕(力点と支点の間の距離) (10.2)
の関係が成り立ちます(図10.3)。
したがって,小さな力で大きな力を出そうとすると,(力点と支点の距離)を(作用点と支点の距離)に比べて十分大きくとればよいわけです。ところが,力点と作用点の動く距離はそれぞれの点と支点との間の距離に比例します(図10.4)。したがって,小さな力で動かすことができるかわりに動かす距離が長くなるのです。結局力は小さくなっても,
(力の大きさ)✕(移動距離)= 一定 (10.3)
になります。要するにてこを使っても,(10.3)の値は変化しないのです。この変化しない量を「仕事」として定義したのです。この変化しないものと関連づけて一般化したのが「エネルギー」なのです。
ここで,力点,支点という言葉を使いましたが,小学校理科で使われる言葉です。高校の物理の教科書には原則としてでてきません。このように学校教育の中だけで使われている言葉もしばしばあります。
関連動画: 「ステップ4: てこと仕事」(6分28秒)
関連サイト: 「第2回 熱と仕事とエネルギー」