熱力学を本格的に学んだ人は「カルノーサイクル」というものを聴いたことがあると思います。熱機関は温度が高い熱源から熱の形でエネルギーをもらって,外部に仕事をし,余った熱を放出します。「熱効率」というのは,高温の熱源からもらったエネルギーのうちどのくらいの割合で仕事をすることができるかという割合です。カルノーサイクルは,理想気体を用いた簡単な熱機関で,理論的に最大の熱効率を持つ「可逆機関」と呼ばれ理想的な熱機関です。これを考えることによって,熱力学の第二法則が,言葉だけではなく,数式を用いて表すことができるようになりました。熱力学第二法則には,いろいろ表現がありますが,一番わかりやすい表現をすると「もらった熱をすべて仕事に変えることはできない」というものです。
このカルノーサイクルはフランスのニコラ・レオナール・サディ・カルノー(Nicolas Léonard Sadi Carnot、カルノー, 1796—1832; 図108.1)によって提案された理想的な熱機関(可逆機関)です。図108.2のように,理想気体をA→B,C→Dの準静的等温変化とB→C,D→Aの準静的断熱変化を組み合わせたもので,熱効率を容易に計算できる。可逆機関の熱効率はあらゆる熱機関の中で最大になります。そのため,カルノーサイクルの熱効率を計算することによって,可逆機関の熱効率を計算することができるのです。
カルノーはフランスのエコル・ポリテクニーク出身で最初陸軍技術士官として工兵隊にいました。退役後,物理学と経済の研究に専念しました。1824年に公刊した「火の動力,およびこの動力を発生させるのに適した機関についての考察」の中で,サイクル,可逆変化などの重要な概念を発表し熱機関について理論的に考察しました。彼の結果は,その後エントロピーの導入や熱力学第二法則の定式化に結びついたのです。その成果は,あまり独創的すぎたのとその後否定された熱素説に基づいていたため,その真価が評価されたのは,発表から四半世紀たってからであった。また,彼はコレラのために36歳という若さでなくなっています。コレラで亡くなったため,彼のノートその他はすべて焼却されてしまったのも,評価が遅れた原因の一つでしょう。