電車を待っているとき,「白線の内側でお待ちください」という放送があります。これは,電車が走っていると周りの圧力が下がって巻き込まれることがあるからです。ガスコンロではガスを空気と混ぜて燃焼させています。ガスコンロでは,ガスの流れによって空気を巻き込むようになっています。これは,ガスが流れることによって,圧力が下がるからです。空気を取り入れるところは空いているのですが,ガスが流れている限り空気を巻き込むためガスは出てきません。最近ファン無し扇風機がありますよね。実はファンはあるのです。空気が吹き出す部分の下にファンが入っているのです,これを狭い吹き出し口から吹き出すのです。そうすると,ガスコンロでの空気が入るのと同じしくみで周りの空気を巻き込みます。そのことによって,吸い込んだ空気の15倍の大きな風を送ることができるそうです。
これらは,「ベルヌーイの定理」というものと関係しています。ベルヌーイの定理というのは粘り気(粘性)が無視できる流体(専門用語では「完全流体」といいます)は,単位体積あたりの流体の運動のエネルギー(密度の2分の1に速さの二乗をかけたもの)と圧力の和が一定であるというものです((1/2)ρv2 +p =一定。ρ は密度,vは速さ,pは圧力)。このため,流体の速さが大きくなると圧力が低くなるのです。飛行機が飛ぶのもこの原理によるものです。翼の上面では,下面よりも空気の流れが速くなり,そのため圧力差ができて揚力が生じるからです。断面が曲がっているために,上部が早く圧力差が生じると考える人が多いようですが,間違っているそうです。実際には,翼の後で発生する渦が関係しているそうです。
ガスの話に戻りましょう。私は30代のころシリカガラスとよばれる材料を製造している会社に勤務していました。そこでは,水素を燃料としてシリカガラスとよばれる材料を製造していました。親会社が食塩電気分解によって,水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を生産していました。その副生成物として,塩素ガスと水素ガスができるのです。その水素ガスを酸素と混合したものを燃やして製品を製造するのです。水素というと,爆鳴気を思い出す方も多いと思います。酸素1に対して水素を2の割合で混ぜてシリンダーに入れ,火をつけると大きな爆発音を出します。そこで,怖いのは爆発です。その時,常にいわれたのは水素の圧力を常に大気圧よりも高くする(陽圧にする)ことです。水素が外に漏れる場合は,空気で薄まるために爆発しませんが,大気圧よりも低くなると空気と混ざり爆発するのです。水素を使う場合,出口で火をつけて燃やすことも有効です。燃えている限り,危なくないと言われました。
電気炉で,ガスを流しながら内部を大気圧よりも高くするために,出口でガスを水の中に通してから大気中にだします。水の中を通すと泡が出て,泡の出方で流れの量をおおよそ把握できます。さらに,水の圧力差の分だけ炉の中の圧力が高くなるのです。大学に転職してからのことです。チッ素を流しながら熱処理を行う実験をするように学生に指示しました。細かい指示をしなかったところ,ガスを流して温度が上がってから,「どうやってサンプルを入れるのですか?」として質問してきました。ガスを流して温度が上がってからサンプルを電気炉内に入れるなんて私には想像できませんでした。その後,熱処理が一定の時間熱処理時間したら冷却します。その学生は電気炉の電源を切ると同時に,ガスを流すのをやめてしまいました。気体は,温度が下がると圧力がさがります。そのため,出口の水を吸い込んでしまい,電気炉の中は水浸しになってしまいました。ボイル・シャルルの法則をあらためて,実感させてもらった瞬間です。安全管理上は,学生の実験にずっとついていくべきでしょう。でも,時間が取れないのでなかなかできませんでした。現在は,その点も確認しながらやっていますが,慣れないといろいろなことが起きるものです。この話をある電気炉メーカーの社長に話したら,そんなの大したことない。ある大学で,大学院生が先輩の電気炉を止めるように支持したつもりで「火を消して」といったら,電気炉にバケツで水をかけてしまった。という話をされました。言葉の違い,思い込みで恐ろしいことがおきます。
方言の問題で行き違いが起こることもあります。私が最初に勤務した会社で聞いた話では新入社員か他の事業所から研修で来た人か忘れましたが,掃除をしたあと掃除道具を「なおしておけ」と言われました。その地方では,片付けることを「なおす」というのです。いわれた方は,ほうきが壊れていないのに,何をどう直すのか?と思って困ったそうです。このような言葉の問題は,方言だけてはありません。所属組織や同業者だけで通じる言葉を使っている場合もあります。「コミュニケーション力」が大切だと言いますが,社会にでていろいろ行き違いや失敗を繰り返していく中で,コミュニケーション力もついてくるのではないでしょうか。