火力発電は水蒸気という「小さなあばれんぼう」が外に飛び出す勢いを利用したものです(実験67)。このとき,蒸気が飛び出すためには,圧力が低いところに向けて飛び出す必要があります。圧力を下げるためには,温度を下げなければなりません。そのために,熱のエネルギーを利用するのに温度差が必要なのです。このとき,飛び出した水蒸気が流れている必要があります。水蒸気はたくさんのエネルギーを持っているのですが,そのままでは発電という仕事に利用できません。熱エネルギーの一部を捨て,水蒸気の流れをつくることによって,そのエネルギーを利用できるのです。このように利用できるエネルギーと利用できないエネルギーがあります。このことを法則化したのが,「熱力学第二法則」です。このことは水力発電と比べてみるとわかりやすいと思います。水力発電の場合は温度差の代わりに水の高低差が必要です。水の流れが止まると水車が動かなくなってしまいます。したがって,水が持っているエネルギーを全て仕事に変えることはできないのです。
さて,水蒸気の流れをつくるために,水蒸気は冷やして水に戻す必要があります。電力会社の火力発電所では,水蒸気を海水で冷やして水に戻した上でボイラーに戻しているのです。ある小学校で火力発電所の見学をしたら「復水器でせっかく水を温めてつくった水蒸気を水に戻すなんてもったいない」ことをしていると感想文に書いた児童がいたそうです。もっともな感想だと思います。実際そのように思えますが,蒸気を水に戻さないと圧力が下がらないため,水蒸気の流れを作ることができないのです。蒸気を水に戻す代わりに,蒸気を熱源として用いることもできます。でも,商業用の火力発電所では水に戻すのが普通です。ボイラーで使う水は純水(脱イオン水)を用いているためです。普通の水道水ですと,ミネラル分が管内に堆積して,細くなり破裂する危険があるからです。
私は,大学院の博士課程を修了後化学会社に就職しました。新入社員研修の一環として,工場での研修がありました。その時配属されたのが動力部というところです。自家発電をしている発電所がある部署です。実習した工場は,東京ドーム65個分の広大な敷地に,当時島根県1県分と同じ発電量があるといわれていました(現在は福岡県の商用発電量程度)。そこの火力発電所には,復水器はなく,発電に使った水蒸気はそのまま製造用の熱源として工場に送られていました。3交代勤務が終わるとみんな風呂に入ってから帰ります。その時,水を貼った浴槽に直接水蒸気を吹き込むとたちまち適温になりました。純水は河川から採取した工業用水を濾過後イオン交換樹脂というものを用いてイオンを取り除いて(脱イオンして)いました。化学プラントですから,発電機だけではなく,直接工場にも送っていました。その後,研究所に配属になりました。実験室では,栓をひねると純水が出るようになっていました。
私が配属された発電所は石炭を燃焼するものでした。石炭を微粉末にしてボイラーに送るのです。石炭を燃やすと硫黄がでますが,これも原料にしていました。何にしているかは忘れました。さらに,フライアッシュとよばれる非常に細かい灰がでます。これをを,電気集塵機とよばれる静電気を用いた装置で集めていました。フライアッシュは同じ敷地内にある,セメント工場に送り,フライアッシュセメントとよばれる高級セメントの原料としていました。このように,多くの工場では廃棄物を原料としてうまく使い,できるだけ廃棄物が出ないようにしています。
製造部での実習は1ヶ月と少しでしたが,3交代勤務を体験しました。当時は4直3交代といって,6人一組の班が4つあり,1勤(8:30~16:30),2勤(16:30~0:30),3勤(0:30~8:30)に分かれて,3日毎に勤を交代していました。4班のうち,1班は常昼班といって,1ヶ月間1勤を努めます。3勤明けは必ず休みとなります。1勤の時の出勤日は3日のうち1日程です。発電所にかぎらず,化学プラントは1年に1回(最近は2年に1回のことが多い),1~3ヶ月かけてプラントを停止し,定期点検をします。その間は,止めることができません。そのため,3交代の勤務を交代しているのです。
火力発電の燃料として,この他,石油,天然ガス等があります。天然ガスは,石油や石炭のようなボイラーで燃焼して蒸気を作るもののほか,ジェットエンジンのような仕組みで発電機を回し,発生した熱い排気で水蒸気をつくりそれで別のタービンを回すという「コンバインドサイクル」があります。