「熱機関が働くには,温度差が必要」です。これは熱力学第二法則の一つの表現になっています。実は,これは「何もしなければ熱は高温から低温に流れる」というのと同じです。温度が同じになった状態を「平衡状態」といいます。平衡状態では,仕事をすることができないのです。このことは,人の生き方の参考にもなるのではないでしょうか。何らかの差異とか,変化が様々なことの原動力になると考えたらどうでしょうか。「不安定な状態だ」「失敗した」と考えて落ち込むよりも,「不安定だから動くことができる」「失敗したから立ち直れる」と考えた方が生産的です。安定した状態では,あまり動きにくいものです。動きにくいというよりも,動く気が起きないといったほうがよいかもしれません。定常ではない状態は,物理では「非定常状態」といいます。「無常」という言葉も同じニュアンスをもつのではないでしょうか。平家物語は「祇園精舎の鐘の声,諸行無常の響きあり」という有名な文ではじまります。無常というと,世をはかなんで,世間から逃げたいという気持のように習ったかもしれません。でも,常に変わっていくことだと積極的に考えると,様々な変化,それによる出会い(縁)によって,人生を積極的に生きていく指針とはならないでしょうか。
もう一つ熱力学から生き方を学ぶことがあると思います。ヒートポンプの熱効率がよいのは,寒い日でも寒い外気から熱をもらい,温かい室内に取り入れていることです。これも,生き方に活かせないでしょうか。自分よりも,経験が少ないもの,一見能力が低いように感じる人達からも学ぶ力の大切さです。このような力が,生きていく力になるのではないでしょうか。そのようなものから,「がめつく」さまざまなことを学ぶということが大切ではないかと思います。私は「がめつい」を時々,「我滅い」と考えてみることがあります。立場を考えて,学ぼうとするよりも,変な我を捨てて,あらゆることから学ぶ。これを「がめつい」といったらおかしいでしょうか。単なる言葉の遊びなのでどうでも良いことですが。