力学的エネルギーは,運動エネルギーと位置エネルギーの和であることをコラム10で述べました。位置エネルギーのことを英語で“potential energy”といいます。高等学校の教科書では,重力の位置エネルギーの他にバネの位置エネルギーというのがでてきます。英語との対応は,ともかくとして,私は重力の位置エネルギーを狭い意味で位置エネルギーといい,その他をポテンシャルエネルギーとよぶことにしています。どのようなことかというと,バネのポテンシャルエネルギーは図17.1のように放物線になりますが,ちょうどこの時の運動は放物線になるような摩擦の無い斜面を動く粒子(質点)を上から眺めたときと同じ運動をするからです。このようにポテンシャルエネルギーを斜面に置き換えて,その斜面の位置エネルギーがポテンシャルエネルギーに等しいという説明をしたいからです。このとき,位置エネルギーという言葉を使うと混乱してしまうからです。エネルギーは抽象的に聞こえるかもしれませんが,このように対応する斜面の位置エネルギーのイメージで置き換えると直感的にわかりやすくなります。物理にかぎらず,物事を学んでいく過程では,このような置き換えと,それに対するイメージを自分で見つけ出していくことが大切ではないかと思っています。
ポテンシャルというと,高校時代の物理の先生を思い出します。授業の中で位置エネルギーと言わずに,ポテンシャルといっていました。そこで,生徒たちが「ポテンシャル・パンダ」あるいは略して「ポテパン」というアダ名をつけました。その当時(昭和47年頃)パンダが人気だったのと,先生の容貌がパンダを連想させたからです。この先生は力学の授業で微積分を積極的に使いました。フレミングの法則(コラム65)を教えずにベクトルの直積(ベクトル積)の考え方をそのまま言葉で説明したので,未だにフレミングの法則が頭にはいっていません。その代わり,大学にはいってスムーズに物理の授業についていけました。
答案を書くときには,式を並べるだけではなく,言葉を書くこと,数値計算をする時には,単位を書いて,単位も同時に計算することを厳しく言われて,習慣づけられました。また先に述べたように,磁気に関するフレミングの法則も教わらず,ベクトルの外積の定義をそのまま言葉で言わされました。そのため,いまだにフレミングの右手の法則,左手の法則を記憶していません。しかし,物理の問題を解く上で何ら問題がなかったばかりか,大学に入ってからベクトルの外積やそれを使って表したローレンツ力などについてすんなり理解できることができました。
進路指導では,大学の名前よりも何をしたいのか,自分が何ができるようになりたいかが大切であることを厳しく言われました。その先生は高校3年生のときの担任だったので,どこの大学を受験するか相談したときに,「大学なんてどこでもいい,どんな大学でもトップレベル(の学生)は優秀だ」といわれました。父に全く同じことをいわれたので,そんなものかと思っていました。それから,社会人になってそのことは間違っていると感じたことはありません。でも,ちがう意識の人が大勢いることは会社に就職してからはじめて知りました。
関連動画: 「力学的エネルギー」(2分50秒)
関連サイト: 「第2回 熱と仕事とエネルギー」