将来に向けた技術開発は重要です。それとともに,エネルギーや資源を有効に利用する社会システムも変えていかなければならないと思います。単に機器の省エネを進めていくだけではなく,ものを大切にしていくような社会システムも大切です。そのためのキーワードは「シェアリングシステム」だと思います。カーシェアリングと呼ばれる言葉を聞いたことがあると思います。自動車を各人が所有するのではなく,複数の人が共有して使おうというものです。自動車もレンタカーやタクシーなどの利用を進めていく必要があると思います。現在のタクシーは待機している時間が長く効率的とはいえません。どこに行きたいかという情報を携帯電話で伝えれば,5分以内に乗り合いタクシーが来てくれて複数の乗客を効率よく運んでくれるということも可能でしょう。レンタカーが必要であればドライバーが家まで持ってきてくれて,帰りはドライバーが乗り合いタクシーで帰るという世の中ができるかもしれません。これらの普及によって,自動車の所有台数,燃料の総消費量の節約ができるのではないかと思います。
別の可能性としてタクシードライバーが様々な資格をとっていろいろなことをするということです。例えば,介護士の資格をとって,1日1時間だけ訪問介護の仕事をする。前後に買い物サービスをすれば,それも収益になる。介護としての労働時間が少ないので,体の負担も軽くなる。このようなことも考えられるのではないでしょうか。さらに,客待ち時間という「すきまの時間」を使うため,コストを抑えることもできるでしょう。
家具,家電製品もレンタルが普及すれば良いと思います。常に最新の状態であることをモニターして,不具合があれば修理に来てもらえる。そのようなシステムができると,従来のように買い換え需要による製造業の利益は減るかもしれません。でも,サービスの要員を増やす必要があるため,新たな雇用と収益源ができるのではないでしょうか。オフィスや学校も昼と夜で建物をシェアリングすれば資産の有効利用ができます。さらに,電力の平準化にも役立ちます。
シェアリングという意味では,電話サービスなど海外との時差をうまく利用するという方法も考えられるでしょう。人に対してもシェアリングが進むかもしれません。自営業の人やアルバイトをかけもちする人は別として,現在では一人の人は一つの会社や役所に勤めています。でも,将来は時間を区切って別の会社に雇われるということもありうるかなと思います。隙間の時間をうまく利用して,雇用者として安い人件費で人を雇用し,労働者としては良い報酬を得るためにはそのようなシステムも必要かと思います。そのために,「マイナンバー」を活用することによって,人事管理会社などといった仕事もできてくるかもしれません。会社自体も異業種の連合をつくり,事務を共有したり,人の貸し借りをしたりすることも有効ではないでしょうか。営業も共通の人がやれば,可能性も広がると思います。個別の問題にそれぞれ対処するととてもコストがかかります。でも,いろいろなことに対してトータルでコストを考えると,様々な可能性が広がると思います。福祉,年金といった問題も他のこととうまく組み合わせて,社会的の中でうまく解決することができるのではないかと思います。シェアリングというのは,いろいろなことを兼ねることだと思います。この文章を最初に書いてから考えたのですが,今までは福祉,教育などの政策はあれもしなきゃ,これもしなきゃと「足し算視考」でやってきたのではないでしょうか。これからは,兼ねられるものは兼ねるだけではなく,様々なことの相乗効果も考えた「兼ね算視考」が大切になってくるのではないでしょうか。
節約しましょう。ものを大切にしましょうとかけ声をかけることも大切です。でも,これまでの大量消費,大量廃棄の生活に慣れている私たちにとって簡単にできることではありません。節約して,世の中の資源,資産を有効活用していくためにはそうせざるを得ない社会システムを考えていく必要があります。これには,今のところ様々な可能性が考えられるでしょう。皆さん一人一人がそのようなシステムを考えていってほしいと思います。
これからの社会をつくっていくためには,いろいろな観点からエネルギー確保を考えていかなければなりません。これまでになく,人口が増え,生活レベルが上がった世の中で,人類が平和に幸せに生きていくためには社会の仕組みそのものを根本から考えて行かなければならないと思います。これまでの日本の工業技術の発展には,「ムリ・ムラ・ムダの徹底時な排除」と言うことを,全社あげて行ってきた成果だと思います。これによって,工業製品の品質,コスト,安全衛生面を含む労働環境の改善がなされてきました。これらは,生産現場におけるQCサークル活動など技術者だけではなく生産に関わる全ての人たちの総力の結晶だといえます。これまで,工業生産を中心として「局所最適化」が行われてきました。これからは,社会全体,地球全体を視野に入れた「グローバルな最適化」が必要になってきます。
「ムリ・ムダ・ムラ」をなくすというと非人間的な響きを感じるかもしれません。でも,これから求められているのは,人間の本性を充分考慮に入れた最適化だと思います。駅に行くと,客待ちのタクシーがたくさんいます。工場の従業員駐車場には勤務時間中使われない車がたくさん駐車されています。就職希望の失業者がいる一方で,人手不足に悩む業種もあります。これらを機能的に組み合わせて,有効に使える社会システムというのができないでしょうか。機能的に考えるというと昔の社会主義国みたいな計画経済を思い浮かべ,拒絶反応を覚える人もいるかもしれません。一方,自由競争も経済発展が保証されている時にはよいのですが,経済が成熟してくると別の問題が起きます。どちらが良いかという二者択一の考え方ではなく,できるだけ多くの人たちが満足できるような解があるような気がします。これはおそらく,多くの人が考えるような定常解ではないような気がします。かなり流動性をもって,人それぞれがその人の特性にあった生き方ができるような世の中をつくる必要があると思います。その一つは,スマートグリッドに見られるように情報通信の有効活用です。最近成立したマイナンバーなどもうまく活用すべきだと思います。もう一つ,このようなシステムを作っていくためには,人間の心理や特性を充分考える必要があります。
他の例として税金の徴収を考えてみましょう。現在国税については,財務省が行っています。一方,社会保険に関しては年金,健康保険,介護保険など別々に徴収されています。さらに,住民税は市役所や町村役場が行っています。例えば,これらを一括して市役所や町村役場が行うことにしたらどうでしょうか。国税については個人が支払わずに市町村は都道府県に,都道府県は国に「税金」として納めるようにするのです。財政が厳しい自治体には,マイナスの税金も考えます(個人の場合も導入したらどうかと思いす)。このようなことをすることによって,かなり経費も節約でき,地方の活性化にもつながるのではないかと思います。
今まで,自然化学,工学,心理学,教育学,経済学,法学,経営学など個別の学問がそれぞれの立場で社会のことを考えてきました。でも,それらを融合したものの考え方が必要になってくると思います。政治的にも経済的にも先行き不安な世の中です。今の社会は「ムリ・ムダ・ムラ」だらけです。だから,改善の余地がたくさんあります。改善の余地がたくさんあるということは希望が持てると言うことです。皆さんの教え子やお子さん方など身近な方がこれからの世の中を変えていく担い手になる可能性も高いと思います。
将来の世の中を創っていくためには,現状の技術を踏まえながら,過去の技術や社会システムに学びながら将来の世の中を考えていく必要があると思います。将来の理想の技術を考えるだけではなく,現在の技術と理想的に技術が開発・普及されるまでの「つなぎの技術」も大切になると思います。それには,個別の技術開発だけではなく,別々の技術の間に調和のとれた技術開発が必要だと思います。これまでは,技術開発には,自然科学的・工学的な方法が主でしたが,これからは人文,社会,自然科学が調和した開発も必要だと思います。これによって,生活に必要な資源,エネルギーを確保するとともに,調和のとれた社会をめざしていくことが必要だと思います。
みらいの社会をつくっていくための,究極の技術を得るまでの間の「つなぎの技術」が大切であるといいました。「つなぎの技術」という言葉から連想して,「つなぐ」という言葉が大切であると考えるようになってきました。昔から,子どもは学校の他に家庭でおじいさん,おばあさん,お父さん,お母さんからいろいろなことを学んできました。これまでの日本は物づくりで発展してきました。自分の子供に物づくりを教えたかったら,学校の理科教育や実験教室,工作教室にいくよりももっと効果的な方法があるように思います。それは,親がに日曜大工,園芸,家庭菜園,料理,お菓子や服など,何でもよいからなにかを作る姿を見せることが一番効果的な教育なのではないかと思います。学校でも,理科や図工で何かを作ることも大切ですが,先生が手作りの教材やプリントをつくって配ること,手作りのテストを使うということが物づくり教育の原点のように思います。
現在の社会,これからの社会は変化が激しい時代です。変化が激しいので過去にとらわれては生きていけないかもしれません。でも,過去に学ぶことも多いはずです。人と人とのつながりも大切です。技術開発というのは,いろいろな人の間のつながりや,過去の経験の積み重ねです。それに基づいて,今の世の中があるし,将来の世の中を創っていく上でも大切です。知識と知識をつなげて考えることも大切です。知識と知識をつなげて考える習慣を付けている子どもはがつがつ勉強しなくても,ある程度の成績がとれます。知識をバラバラに覚えると忘れてしまいますが,自分でつながりを考えながら勉強する人は社会人になってから必要な応用力をつけることができます。さらに,様々な学問の成果を融合していくこともこれからの世の中を創っていく上で大切ではないかと思います。いずれにしても,いろいろなことをつなげて行くことがこれからの世の中を創って行く上で大切ではないかと思っています。