「熱力学第一法則」は広い意味でのエネルギー保存の法則です。熱力学第一法則を提唱した人の一人にドイツの医師マイヤー(Julius Robert von Mayer,1814~1878)がいます。彼は1840年オランダ船の船医として東インド諸島に航海中,船員の静脈血が寒い地域にいるときよりも鮮やかな赤色をしていることに気付きました。彼は,次のように考えました。
「動脈血が静脈血よりも赤い色をしているのは,それだけ酸素が多く含まれているからだ。したがって,静脈血の色が赤いのはそれだけ多くの酸素が含まれているということだ。というとは,暑い地域では,寒い地域よりも酸素を必要としないということが考えられる。つまり,暑い地方ではそれだけ人間の体温を維持するために必要とする酸素の量が少ないのだろう。酸素の消費は体温の維持だけではなく,運動とも関係あるのだから,熱と運動は何らかの関係があるのではないか」
その後,熱力学第一法則の考えを含む論文を発表しましたが当初は受け入れられませんでした。ジュールの名前が先に知られるようになりました。マイヤーは失意のうちに,自殺未遂してしまいます。その後,研究からも身を引きます。しかし,次第にマイヤーの功績も認められるようになっていきます。
ちなみに,血液中の酸素の量を測る「パルスオキシルーター」というのがあります。入院した時に,指につけて血液の量を測るのを見たことがあるかもしれません。これは動脈血を透過する赤色と赤外線の光の透過率または反射率を測るものです。ざっくりした説明をすると動脈血がいかに赤いかで酸素の量を図っているのです。動脈を流れる血液は脈をもっているので,その動きから静脈を流れる血液と区別しているそうです。ちなみに,この装置は日本人が発明したものです。