製造業に勤務すると安全教育や定期的な安全衛生委員会を通じて。安全に対する意識を身につけさせられます。製造現場では,危険予知訓練(KYT; Kiken Yochi Training)を行なっています。これは,KYT用に作成されている「作業中様子を描いた絵」を見て,その中にどのような危険が含まれているか話し合い,一番可能性の大きい危険を避けるにはどのようにしたら良いかを決める訓練なのです。内容は,日々の作業に関係ない題材を扱うことが多いのです。実際の想定しうる事故に対する対処法を考えるというよりも,一種の頭の体操です。頭を活性化して,何か起きたときの判断力を維持することにあります。実際の作業の安全については,マニュアルに記載するとともに,定期的に対処訓練を行なっています。さらに,製造装置などに対しては定期的な点検を行なっています。万が一の事故,怪我や労働疾病を防ぐための保護具の着用も徹底されています。そのため,労働災害,特に死亡や休業を伴う災害は確実に減ってきています。それでも,事故は0にはなっていません。
安全を求めることは当然ですが,予期せぬ事故や作業時の錯誤は無くなりません。でも,着実に減っていることは確かです。安全を考える上で重要な法則があります。「ハインリッヒの法則」というものです。これは,1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり,その背景には300の異常が存在するというものです。300の異常については「ヒヤリハット」とも言われています。ヒヤリとしたり,ハッとしたりするような出来事のことです。会社に勤務しているとき,小さな会社に出向してからは事業所の規模の関係で管理・監督職中心になりましたが,出向元の研究所では定期的に安全衛生委員会の他に交通安全委員会がひらかれ,通勤時の交通事故や違反の防止に努めていました。その中で,よくヒヤリハットの体験談を報告しあうということがありました。通勤時の事故は労働災害になりますので,会社として防止に努めるのは当然です。事故を起こして,欠勤したり,遅刻したりすると業務に差し障ります。まして,怪我や死亡はなおさらです。本人・家族だけてはなく,同僚・会社も困ります。そのための交通安全の取り組みは当然でしょう。でも,今考えてみると,交通安全のことを考えることによって,KYT(危険予知訓練)と同様に,安全意識や安全に導く思考の活性化という目的もあったのではないかと思います。