キャリア教育の中で,「自分自身の棚卸し」とそれに基づく「将来のシナリオづくり」ということを勧めています。これは,自分の過去を振り返って,何かを達成した時,失敗した時などにどのように対処したことを振り返り,自分自分どのような考え方をして,どのような行動をする人間かを把握することだと考えています。それに基づいて,どのように生きて行きたいのかのシナリオをつくるのです。もちろん将来のことはわかりません。ですから,作家が作品を書くように創作していくのです。
自分自身の棚卸しや将来のシナリオづくりをする時に,何のため」にしたのかということがとても大切だと思います。「なぜ」とか「どのように」を考えることは学校教育の中ではあまりされてこなかったように思います。「何のため」にするのかといった考え方が大切です。何かしたら,「その目的は?」と問い続けていくのです。図135.1のように例えば進学を考える場合,大学受験をする目的を考えるのです。さらに,「その目的は?」と問い続けていくのです。このように問い続けていく方法を「目的展開」といいます(この考え方は「ワークデザイン」という創造技法の一部です。「みらい創造思考」に私なりに概要をまとめてあります)。
例えば,高校生のA君は大学受験を考えています。彼は,受験の目的について,このように考えてみました。まず,A君は災害の犠牲者を少しでも減らしたいと思っていたとします。そこで,とりあえず「大学の機械システム工学科を受験する」とします(図135.1)。その目的な何かを自問自答します。その結果『機械システム工学科」に進学するとします。それは何のためかと自問自答して,「ロボットを創るための基礎的素養を学ぶ」とします。その目的は「災害救助ロボット」をつくる。その目的はというような自問自答を繰り返します。「災害の犠牲者を無くす」とします。その結果,この中から「災害の犠牲者を無くす」を当面やりたい目標だとします。そうして,とりあえずその目標に向かって頑張ってみるのです。
このような問いかけをしてみることは,「機械システム工学科」に入れなかったら,どうするか?といった選択肢も考える時の参考になります。ロボットはつくれなくても,消防関係の職についたり,国土交通省に入って防災工事を計画したり,市役所で防災の仕事をしたりするのも一つの案になるかもしれません。それを選択して,うまくいかない場合は,再度このような自問自答を繰り返していくのです。
その中で,自分は何のために目標を達成するかを考えていくのです。このような目的展開をすると,企業で収益を上げるとか,成績をあげるなどのようなことを目的にする人がいます。収益とか,成績を上げる,試験に合格する,昇進するなどの目的ある意味での目的ですが,ある意味では「成果」ということもできます。目的展開の中に「成果」いれてしまうと,そこでとどまってしまいます。ここでいう目的は「はたらき」あるいは「機能」を表す目的にするのです。このことによって,目的と手段を取り違えないようにするのです。
例えば,会社の事業で収益をあげるのは,消費者が必要とされる商品やサーヒスを提供しているからです。収益はあくまでもその見返りとして得ていると考えるのです。そのように必要なものを自分達はどのように提供できるかを考えていくのです。収益を上げることばかりを意識しているのと,マネーゲームに走って,最終的に大損するだけではなく,本業での社会への影響力が下がってしまうこともあります。ひどい場合は,上司の顔ばかりみて,経理操作したり,長期で損することをしたりしてしまうことがあります。このような事例は,新聞記事の中で事欠きません。
最終的には,目的といっても,自分たちのためではなく,自分たちは社会にとって,どのような寄与ができ,その見返りとして収益をあげたり,社会の中で生きたりしていくことこができるかを考えることが大切ではないでしょうか。そのような観点があれば,個人にとって「挫折した時に,目的を再設定しなおして前向きに生きていける」のではないでしょうか。