油やロウソクの炎をよく見ると煤(すす)が出ています。子どもの頃,太陽を観察するのに,ガラス板にロウソクの煤をつけて観察できるということを本で読んだことがあります(紫外線をカットとしていなので,目をいためます。絶対にやらないでください)。また,卵の殻にロウソクの煤をつけたものを水の中に入れると銀色に光るという実験を家でやった記憶があります。銀色に光るたまごの煤の働きはよくわかりませんが,煤は水をはじく性質をもっていることと,水の表面張力の影響で煤水と卵の間に空気の層ができるためではないかと思います。空気の層ができると,水の表面で全反射するために,銀色に見えるのです(実験47)。
さて,油を燃やした煤は炎で熱せられて光っています。鉄を熱すると光るように煤も,温度が高くなると光るからです。そのため,油やロウソクの炎はオレンジ色に見えるのです。はずかしい話ですが,実は,このことに気づいたのは,ごく最近のことです。免許状更新講習や児童向けの実験教室などで油を燃やす実験は何度かやっていました。平成25年6月に福井県教育研究所の中学校理科第一分野の教員研修で説明しているときに,煤がでているのを見て初めて気づいたのです。そこで,すぐに煤が光っていることを説明しました。このように,色々なことを理解したり,今まで知っていた知識の意味に気がついたりするのは,インプットしている時だけではなく,アウトプットしている時の方が多いものです。もう一つ気がつくことが多いのは,他のことをしている時です。私は,朝の散歩の時によくいろいろなことを思いつきます。また,何か課題を抱えているときには,朝目覚めた時に解決策が思い浮かぶことがよくあります。北宋の欧陽(おうよう) 修(しゅう)(1007~1072)は,良いアイディアの思い浮かぶ場所として,馬上,枕上,厠上をあげていますが,まさにそのとおりだと思います。学校教育でも,生徒に積極的にアウトプットさせて,気が付かせるような教育が必要だと思います。ただし,学校教育で難しいと思うのは,課題を長い間考え続けることがしくいことです。アイディアが思い浮かぶようになるには,長い間,しつこく,しかも断続的に,深く考える習慣を付ける必要があるのではないかと思います。
煤は習字で使われる墨の原料となります。墨は煤を動物の骨や皮から取ったゼラチンである膠(にかわ)で固めたものです。墨は乾くと水に非常に強くなります。江戸時代,江戸のような都市では,しばしば大火(広い範囲での大規模な火災)がおきました。当時,火事になると商店の帳簿である大福帳(だいふくちょう)を井戸に投げ込んで焼失を防いだといいます。火事が収まってから,井戸の中から取り出し,乾かせば使えるからです。このようなことができたのは,和紙や墨が水に強いという性質を持っているからです。
関連動画: 「 火を使ったあかりから白熱電球まで」(9分13秒)
関連サイト: 「第6回 あかりと熱源の歴史とエネルギー」