深層学習(ディープラーニング)を含む人工知能の開発が進み,難しいと言われた囲碁もプロの棋士に活用になったり,作家の作風をまねた作品を書いたりと人口知能の話題を耳にするようになりました。一方で,人間の知能を凌駕するのではないかという懸念を示す人もいます。しかし,私はこれをうまく使いこなすことが様々な面で将来の発展を創るきっかけになるのではないかと思います。
コンピュータが職を奪うということを懸念する人もいます。これまでの,計算,データ処理を基本とするコンピュータの発展で,経理の仕事や機械的な仕事は確かに奪われてきました。一方で,物理学系の自然科学や統計学をベースとした技術などの発展にも寄与しました。今後は,もっと質的な処理をコンピュータがするようになってくると思います。今までは,ある意味で計算とか,単純作業をコンピュータ化する方向できました。しかし,今後はある程度判断などもできるようになるでしょう。人口知能が発達すると人間は考える必要がなくなるのではないと:懸念する人もいます。でも,私はコンピュータで取って代わられる能力というのは所詮,学校の秀才タイプの人が持っている優れた能力がもっとすごくなるだけのような気がします。人間の感性,直感,勘違いなどに基づく創造は人間が相変わらず関与するように思います。むしろ,人口知能の発展によって,そのような直感的な作業がしやすくなるのではないかと思っています。そのような状況下では,物事を複雑化して考えるのではなく,簡単に,単純に整理して考える力が重要になってくるのではないでしょうか。
思いついたら,ビックデータと結びついたデータ処理も含めて調査やシミュレーションをたくさんできます。その中で,アイディアを検証していくこともできます。これまでの数値シミュレーションでは,モデルにとらわれていましたが,色々なモデルを考えることも含めて人口知能を用いて検証が可能になってくるのではないでしょうか。さらに,様々な社会での情報が「ビックデータ」として利用できるようになり,それとも併せた調査を含めたシミュレーションが可能になるのではないでしょうか。ある意味で,社会科学の分野での発達,あるいは「社会工学」といった社会科学の応用分野の急速な発展を促すのではないかと期待しています。
もう一つの人口知能の適用で変わると考えられるのは,教育の分野です。学習というのは,各人の特性すなわち,個性によって違うはずです。人口知能によって,学習に関する特性を判定しながら教育していくシステムができるのではないかと思います。人口知能システムでは,理解の程度,知識の確認,技能の確認を常にしながら学習できるようになるので,従来の意味での学校でのテストは不要になるかもしれません。基礎的な技能,知識については人口知能を備えた機械で学習しますが,学校が不要になるわけではないと思います。基礎学習は,自宅ではしにくいとおもいますので,学校で行うのが適当でしようが,その他に,討論,発表,教え合いなど人と関わる部分は集団での授業を行うでしょう。
教育機器の発達が,様々なタイプの人の考え方,処理の仕方,感じ方を認知することによって実学としての心理学的が発達してくるのではないかと思います。人間の心理を考えながら,商品開発,マーケッティング,政策決定などにも活かすことができるのではないかと思います。人間の生き方の多様化に伴い,現在の多数決中心の「民主政」はいずれ限界がくるもものと思います。いずれというよりも,すでに限界が見えてきています。その中で,人間の心理を含めるとともに,全体の効果を見ながら,限られた資金,時間などの制約のもとどのような順序で課題を解決していくのかというプロセスを提示することが求められるようになるのではないかと思います。すべての人たちが安心して生活でき,その人なりに生活できるかということを目指した「民本主義」の形でできればと思っています。
人口知能の発達によって,ゲームをもっと,実用的なものに発展できるかと思います。もちろん,ゲームを教育のためのシミュレーションとしても使われるようになるでしょう。その他に,例えば,ビジネスゲームを複数の人と人口知能が組んだシステムで行うことが考えられます。ただのゲームではなく,実施可能で有益なアイティアがあったとしたら,それを本人の了解のもと実施して,利益をあげたらその一定の割合を考案者に配当するようなシステムができるかもしれません。素人の先入観にとらわれないアイディアがビジネスモデルの構築に結びつくかもしれません。引きこもりの人が,よいアイディアを出して引きこもったまま金を稼ぐこともできるかもしれません。「キャヴェンディシュ」(コラム55)は半ば引きこもりのような状態で莫大な財産をつかって研究をしましたが,今後は財産がなく,職が無い引きこもりの人が新しい研究やビジネスモデルの提案しながら,収入を得ることも夢ではなくなるように思います。