本文で述べたように,おもりを下げたペンシルバルーンは温めっぱなしでも,冷やしっぱなしでも長さは変わりません。お湯を流し続けても,さらに縮むことはありません。この場合,温めることと冷やすことを交互に行うと,蒸気機関のピストンが動くように往復運動します。また,温度差を使って熱の流れを作ることによりものを動かす仕組みもあります。このように熱を仕事に換えるものを「熱機関」といいます。
こように,温度差を使って熱の流れをつくると,モノを動かすことできます(実験1, 実験61, 実験62, 実験70)。熱が仕事をするということを考えるのには,火力発電のモデルを考えるとよいでしょう(図107.1)。ボイラーで水蒸気をつくり,それでタービン(水蒸気で動く羽根車)を動かします。蒸気は,流れていなければならないので,熱を捨てる必要があります。そのためには,ボイラーと蒸気が出て行くところに温度差が必要です(図107.1,107.2)。
この熱の流れは水の流れに例えることができます。高いところにある水が,低いところに流れるときに水車を動かして仕事をします。この時,水の持っている運動のエネルギーが水車を廻す仕事をします。このとき,水の持っている運動のエネルギーを全て仕事に変えようとすると,水車が止まってしまいます。水車を動かすには,水が流れていなければなりません。したがって,捨てられる水のエネルギーが必要なのです。この関係は物理の基本法則である「熱力学の第二法則」そのものです。熱力学の第二法則は「熱機関が働くためには必ず温度差が必要」あるいは「高温の熱源(高熱源)と低温の熱源(低熱源)が必要」のように表現します。
先に述べたように,熱の正体は「小さなあばれんぼう」の運動です。「小さなあばれんぼう」はバラバラな方向に運動しているため,いくら元気がよくてもそのままでは外部に仕事をすることはできません。熱を仕事に変えるためには,「小さなあばれんぼう」の「流れ」をつくる必要があります(図107.3)。温度差があると,高温のところでは「小さなあばれんぼう」は低温のところよりも元気がよいために,高温から低温に流れることができます。この流れを利用して小さなあばれんぼうは外部に仕事をすることができるのです。
熱力学の第二法則は熱エネルギーを100%仕事に変えることはできないということを示しています。熱効率100%が実現不可能ならば,どこまで熱効率をあげることができるのでしょうか?それを追求することは,人間の願望として当然のことかと思います。実際,19世紀の物理学研究者はそれを追求しました。熱機関の熱効率をどこまで上げられるかを研究する上で,理論的限界が見つかりました。その理論的限界をもとに,熱力学第二法則を数式で表すことができました。その数式を用いて,熱機関の効率の向上だけではなく,物質の性質の理解にも貢献しました。
関連動画: 「熱の流れを利用した熱機関」(8分07秒)
関連サイト: 「第10回 熱の流れと熱機関」