「失敗は成功のもと」という言葉があります。社会人になったら,失敗から学ぶことが大切になります。「報告書」を書くことは新入社員にとってハードルが高いものです。私自身もそうでした。そこで,「とにかく書いてみて,上司に指摘されながらだんだん書けるようにすることが大切だ」と学生に言っています。最初から無難に物事をこなしていき,無難に仕事をこなしていた人が責任のある地位になってから初めて失敗したらどうなるでしょうか。そのような人は失敗を恐れるのではないでしょうか。万が一失敗した場合,失敗を隠そうとしたら大変です。重大な事態につながりかねません。そのような事例はマスコミの報道でしばしば耳にします。失敗は,早いうちから経験しておく必要があるものと思います。大学生の中には,最初から正解かどうかをものすごく気にする人がいます。1年生の物理実験で,レポートによっぽど自信があったのでしょう。「完璧ですか?」と聞いてきた学生がいます。それに対して,「完璧なんてありえない。よりよいものがあるだけだ」と言ったら,びっくりしていました。その後,私の考えを理解したようで,他の学生に対して完璧なんて無いということを言っていました。授業でも,試行錯誤しながら学ぶことを強調しています。
私は,会社にいるときは製品検査や開発品の物性評価を担当していました。その関係で,しばしばクレーム処理に携わりました。自分が失敗したわけではありません。もちろん,通常の業務やクレーム処理の中でしばしば失敗しましたが,クレームがあった時には自分の責任とは関係なく対処しなければなりません。不良品を納品した時は,とりあえず良品を選別する方法を考えます。できるだけお客様にご迷惑をおかけしないように納品するためです。それと並行して,原因の調査,対策方法の検討を行っていきます。その際,とりあえずコストのことは二の次にして,できるだけ早く対策が取れるかどうかを考えていきます。忙しくて,愚痴を言っている暇もありません(もっとも,クレームがあった時には会社からの帰り飲み屋に寄って,製造の係長を呼び出して酒を浴びるように飲んでてから家に帰りしましたが・・・)。クレーム処理は大変でしたが,それから学ぶことも多くありました。対処次第では,取引先から逆に信用を得ることも多々あります。特にうるさ型で実力のある中小企業経営者は,どのような態度で対処すかをよく見ています。
複数の人がかかわるトラブルが起きることがしばしばあります。その時は,まずうるさ型の人のところに飛び込んでいくことが有効なことが多いように思います。特に人に嫌われているうるさ型の人は寂しいことが多いのです。まず,そのような人の意見を真摯に聞いてから,自分の意見を率直にいうとうまく行くことが多いのです。さらに,その人から信頼されたり,良くしてもらったりすることもあります。そうすると,その他の人との関係も良くなってくることも多いように思います。
製造業で働いていると,安全教育を徹底的に受けます。その際,事故の原因となった失敗に対して,強く叱ってはいけないという原則があります。失敗した人は,自分でよく事態を認識しています。その上で責めると失敗を隠すようになります。しかることによって精神状態が不安定になることもあります。それがもとで,もっと重大な事故につながることにもなります。鉄道会社が少し失敗すると懲罰的な勤務をさせていたことによって,重大な事故につながったことを記憶されている方も多いかと思います。
関連サイト: 「第3回 主体的・対話的で深い学びとは」
「第15回 持続可能な社会に向けて ~ 社会的視点で考える事 ~」
「その他テキスト」