イデオロギー支配とたたかうために

投稿日: 2012/11/20 23:52:52

イデオロギー支配とたたかうために

いまこそ自覚的な学習運動を

鰺坂真さん(関西勤労協副会長)

12月4日公示、16日投票が決まり、テレビも新聞も総選挙をめぐる報道が盛んです。しかし「民主と自民に第三極を加えた三つどもえ」「民自激突、第三極がカギ」、よく見れば古い自民党型政治での見せかけの対決でしかありません。真の対決軸は、真の争点は・・・。

第24回総会に先立って行われた記念講演での哲学者の鰺坂真さん(関西勤労協副会長)のイデオロギーとのたたかいの重要性の部分を紹介します。

イデオロギーとは何か

21世紀に入って世界的にもそうですが、特にわが国では自覚的な学習運動がますます必要になっており、大阪、京都両方で勤労協の副会長をしている。

まず自覚的学習運動が必要だという理由は、私たちを取り巻くイデオロギー状況という面からです。イデオロギーというのは翻訳しにくいのですが、社会意識とか、虚偽意識という意味です。最近になって特に重要な問題になっています。支配階級は階級支配をするとき、封建時代は力による支配をしてきました。ところが第2次大戦の敗戦後憲法も改まって日本国憲法になって、こういう力づくの支配はできなくなりました。

ではどうするか、警察を使った支配は陰に陽にやっているが、いま国民支配の主な道具はイデオロギー、つまり社会意識、虚偽意識をテレビ、ラジオ、新聞、週刊誌などのマスコミを使っての人民支配を強めている。また教育、教科書を通して、イデオロギー支配を進めようとしています。

イデオロギーというのは個人個人がもっている意識ではなく、社会的意識、社会的に何となく世の中全体の人が思わされているという意識です。イデオロギーは虚偽意識、偽りの意識にもなる。まったくウソ、100%ウソなら見破られる訳ですが、イデオロギーは一部の真実を含みながら、しかし全体としてみるとウソ、偽りの意識を人々に植えつけて、みんなにそういう気にさせます。

いまのマスコミはかなり意図的にイデオロギーを利用し、イデオロギー的に国民を誘導することをしつこくやっています。現代の支配層にとってはこれが頼りです。昔のように力ずくで、あるいは法律・治安維持法で取り締まることはできないから巧みにイデオロギー誘導するのです。

学校教育も文部省ががっちりと支配しています。法律ではないが学習指導要領を文部省が決めて、これに従って教科書もつくられる、教師たちはこれを外れてはいけない、小学校、中学校、高校とかなり細かく文部省が決めている。今問題になっているのは、60年ほど前、アジアでひどい侵略戦争をしたことは教えてはいけない、さすがに戦争がなかったとは言えないので、戦争は書くけれども日本の侵略戦争だったとは書いてはいけない。従軍慰安婦が問題になっているが教科書には書いてはいけないと、教科書問題がもめている訳です。

近年のイデオロギーの特徴

日本の国家財政が危機である、国債が膨らんで何百兆、地方の債務もあわせると1000兆円とものすごい赤字を日本は抱えているから消費税を上げられてもしょうがないかと思わされている。ヨーロッパでは20数%、日本はまだ5%、だから10%になっても仕方ないと思わされる。これもかなり悪質なイデオロギー攻撃です。ヨーロッパは高い、どこの国も20数%というのは事実です。しかしそれは贅沢品にかけているのであって食料品・医療費には消費税はかけない、つましく暮らせば消費税を払わなくても暮らせる。これがヨーロッパの実情なのに、そこは言わないで20数%かかっていることだけを言う。労働組合や民主団体の機関紙などで段々と知られるようになり、値上げしなくていいのではないかと増税反対の声は段々高まっている数字が出てきた。民主党の中からも異議が出て割れる状況が生まれている。勝負はこれから、まだまだイデオロギー支配が続いていることを見ておく必要があります。

近頃は竹島や尖閣列島問題で、どうも中国が危ない、北朝鮮が原爆をつくった、自衛隊の軍事力を高めないといけないとあおり立てる政治家が増えています。

北朝鮮が日本に攻めてくることがあり得るか、できるわけがない。人口から言っても3分の1、どうやって占領するのか。国民総生産GDPは数兆円、日本は500兆円だから100分の1以下、変な首領でも生産力が100倍違う国を攻めるなんてあり得ないことです。日本海側の原発をねらった不審船でかく乱ということはあるかもしれないが、自衛隊が出るまでもなく、海上保安庁がきちん取り締まればいい。憲法をかえて備えるような問題ではない。しかしマスコミは危ない危ないと世論を誘導しています。今度は尖閣列島で中国が攻めてくる、自衛隊の予算を増やさないといけない、ねらいは軍需産業を栄えさせるところにある。戦争できる国にしたい、本当のねらいはそこにある。こういうイデオロギー攻撃がされていのです。

無茶苦茶な橋下維新の会

最近の例として、橋下・維新の会があります。大阪を無茶苦茶にしている。政治は独裁が必要である。民主主義の政治は議論ばかりして何も決められない、だから独裁をしないとまとまらないと数年前から唱えていました。独裁は露骨だから最近は「決められる民主主義」と言い始めた。「決められる民主主義」は独裁の言い換えです。

なぜこういうのが出てきたか。自民・公明の政治はこりごり、変えてくれということで政権交代が起こりました。希望託した民主党政権はこりごり。マニフェストに書いてあったことはせず、書いてなかった消費税を政治生命をかけてやると野田首相の主張です。本当に無茶苦茶。こんな政治はご免だという空気が満ちあふれてきました。

自公もダメ、民主もダメ、どうしたらいいのかということになって、マスコミのイデオロギーで維新の会に希望を託そうかという動き、ムードが出てきた。しかもマスコミにしょっちゅう出るから、あの男はちょっとやってくれそうだ、変えてくれそうだと変革を託そうというムードがつくられてきました。

なぜそれが東京ではなく、大阪からか出てきたのか。大阪は天下の台所といわれて日本の経済の中心でした。明治以後も大阪の経済力は大きなものがありました。戦前は東京よりも大阪の方が経済力があったんです、昭和までは。大銀行の本店も、大企業の本店も大阪にたくさんありました。ところが戦後、情報社会になってきた。情報がみな東京に集中するから、東京に本店がないと商売がしにくいと、高度成長期に大銀行・大企業の本社が東京に行っちゃたんです。戦後の日本資本主義の大きな構造が変わったために、失業率全国一が大阪、生活保護が全国で一番多いのが大阪。学童が援助をもらうのが全国一多いのも大阪。それで大阪を何とかしてほしい、変えてほしいという声がありまして、そこで出てきた橋下が大阪経済を立て直す、それには大阪府ではなくて大阪府、大阪市を壊して大阪都、都にすれば大阪の経済が立ち直ると言った。

しかし都政にしたら東京並みになるというのは、ウソ・偽りです。そんな保証はまったくありません。東京は都政だから豊かなのではありません。本社が集まったから赤字がない、石原慎太郎はのほほんとしておれるんです。

デマ宣伝を得意とする市長は、弁護士の資格をもっていますが、弁護士の先生に聞くと「弁護士としてはカスや、ろくな弁護士活動をしていない」、弁護士としてやったのはサラ金の顧問弁護士、会社側です。弁護士の資格をもっていても、芸能番組で芸人として名をあげたんですよね。芸人の感覚、だからテレビに出て次から次に新しいことを言ってはマスコミを賑わす。マスコミはそれを利用して、あたかも維新の会こそ自公民にとってかわる第三極であるかのように天まで持ち上げている。イデオロギー支配はこういう形で行われることも申し上げておきたい。

そういう極めて複雑な形での人民支配が進んできており、これを打ち破っていく必要があります。いいかげんな商業マスコミに任していないで民主団体、民主的な労働組合、民主的な政党の新聞などをどんどん普及していくことも必要ですが、同時に意識的な自覚的な学習運動を広げる必要がある。労働学校、各都道府県の学習協とか、この運動を多いに発展させて、イデオロギー支配を打ち破っていかないといけない。広島県でも広島県労学協がおおいに発展されることを期待したい。

戦前と違ってマスコミ支配が巧妙に、しかもしつこく行われている時代においては特に自覚的な学習運動の発展が必要である、使命はますます重いことを強調しておきたい。

世界は激動の時代

国内状況は大変だけれども目を開いてみると世界は大きな転換点にある。21世紀に入りまさに激動の時代になってきている。

ソ連・東欧がつぶれてアメリカだけが勝ち残ったといわれた時期がありましたけれども、そのアメリカ一極支配が崩壊し始めた。何といってもアフガン、イラク戦争の失敗がある。この時に如実に表れましたが、ヨーロッパのEU諸国が言うことを聞かない、ドイツの首相、フランスの大統領が口をそろえて、アメリカにそんな戦争はやめておけ、一緒にはやれないとはっきりと言いました。かつてはアメリカと一緒に行動していたヨーロッパ諸国が、アメリカの言いなりにならない、足を引っ張る行動を公然ととるようになりました。さらにはアメリカの裏庭と言われた中南米で、ここ十数年の間に次から次へと反米政権が生まれている。中南米の変化は非常に顕著です。

そこへもってきてアメリカ経済が危ない。3、4年前リーマンブラザーズの破産が起こりました。そしてギリシャの財政危機が起こってきて、世界恐慌といわれるようなものが、ヨーロッパだけでなくアメリカをも覆いつくす。世界中を巻き込むようにアジアにも及んでくる、世界中が大変なことになる状況に進んできている。これはまさに20世紀の後半から始まった新自由主義的な経済、新自由主義と言われる、資本主義の一番悪いところが露骨に出てきた。この新自由主義が破綻した、このやり方ではどうにもならないことが表にも現れてきた。

昔は単純に資本主義がダメなら社会主義にと言われたが、そうはならない。難しい情勢ですね。資本主義はダメだけれども次の世界はどうなるんだ。明確なイメージが描けない、踊り場みたいな時期に入っているのではないかと思います。単純に社会主義に進むという時代ではない。むしろソ連・東欧体制が崩壊した影響が大きな壁をつくっている。

日本の未来示そう

資本主義が行き詰まっているのに、どうしたらいいか明確にイメージが描けない。今そういう狭間の所に来ていると思います。私たちが頑張って日本の未来をはっきりと示さないといけないわけです。何といっても自覚的学習運動の発展が要望されるところにきている。日本の国内情勢をみても不況が長引き、格差と貧困が広がる、アメリカだけではなく日本資本主義の行き詰まりが明らかになってきました。自公はご免だけれども民主にもがっかりという気分が満ちあふれている。科学的社会主義の世界観に向かっているかというとそこに行っていない。そういう難しい時点にわれわれはいると思います。いまの日本資本主義の矛盾をきっちりと規制して、長期的には社会主義、科学的社会主義の方向へ日本社会をつくりなおしていかないとどうにもならない。

そういう状況ですから私たちの学習運動はいっそう重要になってきていることを強調したいと思います。