哲学講座「時代を哲学する」第7講「ベーシックインカム」

投稿日: 2019/05/23 4:47:33

AI(人工知能)革命のもとで「新しい社会保障」の考え方が登場。福祉国家は「完全雇用、社会保障、公的扶助」の3本の柱からなっている。しかし日本では、完全雇用は達成されておらず、公的扶助の生活保護の補足率は20%前後にすぎない。

日本では2016年からAIブームとなり、AIはこの年の流行語大賞の候補になる。汎用人工知能により、人間の労働の汎用人工知能を搭載したロボットなどの機械に代替され、経済構造が根本的に変革する。

新しい社会保障としてベーシックインカムを考えるべき時代が到来する。ベーシックインカムは、現実の矛盾を解決する観点をもたない。ベーシックインカムは、現実の矛盾とは別に予想されるあるべき社会を想定している。しかし社会主義の課題は、「できるだけ完全な社会制度をしあげること」ではない(それは空想的社会主義の考え)。

社会主義の課題は、資本主義の2つの「階級とその対立抗争とを必然的に発展させた歴史的な経済的経過を研究し、この経過によってつくりだされた経済状態のうちにこの衝突を解決する手段を発見すること」であった。つまり、現実の矛盾を一つひとつ解決する階級闘争の発展のうちにのみ、貧困解決の未来がある。こうして「社会主義は科学になった」。

ベーシックインカムのいくつかの仮定を資本主義のもとでそのまま肯定することはできない。資本主義の運動法則との関連で、ベーシックインカムの仮定をみておく必要がある。人工知能によって生産力が飛躍的に拡大するかどうかも、資本主義そのものが全体として「ゼロ成長」に向かっていることからして疑問。

資本主義がAIによって新しい雇用をつくりださないまま大量の解雇を生みだすことは、生産と消費の矛盾を拡大し、資本主義自滅論につながるが、階級闘争を抜きの自滅論がありうるのか。ベーシックインカム論には、現在日本の階級闘争の発展した先にAI時代の階級闘争があることを見ようとしない。社会保障は、資本主義の生みだした「富と貧困の対立」を緩和する「所得再配分」として生まれたものであるが、ベーシックインカムには、「所得再配分」の観点がなく、貧困を解決するものではないから、新しい社会保障にはなりえない。

ベーシックインカムが新しい社会保障となるためには、「所得再配分」の観点から、「大企業優遇税制の見直し、法人税、所得税を元に戻す応能負担の原則」でなければならない。しかし、AI、ベーシックインカムにより、今後資本主義の矛盾が激化することは間違いない。