「一粒の麦」NO.230 会長エッセー 映画の話

2015/03/18 22:45 に 山根岩男 が投稿   [ 2015/03/18 22:50 に更新しました ]

 子どもの頃から映画は好きだった。初めて観た映画は教育映画といわれていたものだったと記憶する。辛い環境の中でも困難に負けず生きていく少年・少女を描いたものだった。それを観ては感動し襟を正された。かすかに記憶に残っているのは、盲目のバイオリニスト少年の話だ。ハンディに負けず努力する映画だったと思う。
 一押しの映画は「砂の器」
 いちばん好きな映画はどれか?と尋ねられたら即座に、松本清張原作・橋下忍脚本・野村芳太郎監督の「砂の器」と答える。劇場で6回、ビデオとDVDで数回ずつ観た。何回観ても観るたびに泣いた。殺人事件に端を発したサスペンスだが、ハンセン氏病の父と息子の切ない道行きも重要な主題になる映画だ。初上映から40年が経っている。数年前にリバイバルで上映された。このリバイバル上映が劇場での6回目の鑑賞だった。何度観ても同じシーンで涙が溢れる。それは、父が病気による隔離のために施設に入る時、息子が父を慕って走ってくるシーンだ。筋はわかっているから落ち着いて観れるだろうと思っていたが、不覚にも文字どおり号泣してしまった。まわりも泣いているから安心して号泣した。ちなみにこのシーンは木次線の亀嵩駅が舞台だった。
素晴らしい総合力
 この映画を一押しするのは、脚本・音楽・風景・演技・カメラワークなど全て素敵だからだ。殺人事件の犯人追及のサスペンスながら、ハンセン氏病への偏見・誤解を世に問う社会派の脚本に頭(こうべ)を垂れた。ハンセン氏病ゆえ故郷を去り、あてのない旅に出る親子の回想シーンには、「宿命」というピアノ協奏曲が流れる。大荒れの冬の日本海、酷寒の雪原の道行き、杏の花が咲き乱れる春の農村、父と別れる夏の日の駅。それぞれのシーンをピアノ協奏曲「宿命」が美しく奏でる。チャイコフスキーのピアノ協奏曲に魅入られた頃でもあったので、「宿命」も大好きな曲のひとつになった。
 父親役の加藤嘉さんや、情愛深い警官を演じた緒形拳さんの演技も忘れがたい。カメラは川又昂さんで、監督の指示もあろうが辛抱強く名シーンを撮ったものだ。
 教育映画や「砂の器」は40年~50年前に観たものだ。今でも心を温かくする。映画が心に与える栄養は凄いものだと思う。もっとも創造文化・芸術は全てそういう役割をもっている。そういうものに触れる数だけ心が温かくなり幸せになれる。
余談ながら号泣について
 最後に余談とは変であるが、ここまで書いて号泣について想いだすことがあった。心のコントロールが利かず大泣きしてしまうのは恥ずかしいことであるが、これまで2回号泣したことがある。ひとつは、父のお棺に蓋がされたとき。もう一つは、国鉄の分割・民営化で、所属していた国鉄労働組合が分裂させられる前夜、ある集まりで「戦後労働組合運動を引っ張ってきた国労が・・」までしゃべって「明日分裂させられる」という言葉がでないうちに号泣してしまった。このふたつは人生の大きな出来事だから納得だ。自分の人生そのものではない映画が、それほどの号泣をさせる力があることに敬服する。観たい映画はいっぱいあるが、やたら忙しく映画が見れないのが残念至極である。

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