哲学講座「時代を哲学する」第3講「万引き家族」と豊かさ

投稿日: 2019/01/15 8:14:49

本当の家族ではない「万引き家族」は、貧乏のなかにあっても、お互いの生き方に批判があっても、豊かな人間関係を築き、お互いに信頼しあっています。お互い信頼し合い助け合う人間関係が「万引き家族」に豊かさをもたらしています。

では豊かさとは何か。この世の中に満ち足りないことは無数にあります。一番の問題は、資本主義の基本的矛盾から生じる貧困にあります。資本主義経済は資本家が富を独り占めにし、労働者国民の「格差と貧困」を拡大する経済であって、本来の経済ではありません。

そこからすべての人の命と暮らしを守る豊かさが問題になってくるのです。

資本主義経済は同時に一人ひとりバラバラに切り離し豊かな人間関係を破壊しています。人間を助けたり、助けられたりする人間関係のうちに豊かさを見いだしてきました。「万引き家族」のような人間的「絆」を求めて豊かさを見いだしてきました。

経済優先の企業社会は経済の繁栄をもたらしたが、他方で「人間にとって真に豊かでいきいきとした社会」を犠牲にしてきました。 豊かさとは「安心と安全と信頼できる」人間関係が存在することである。「豊かさの条件とは何か」、それは「人間社会の本質を、助け合う互助と互恵の社会」です。

人間は700万年近い階級がない社会の歴史をつうじて、「個人として自由な意識」と「社会人として共同社会性」という、二つの人間の本質を生みだしてきた。二つの本質はバラバラに存在するのではなく、人間は人間社会の一員として存在したし、社会の生みだした富のうえに個人として自由な意識をもっています。

しかし、人間は階級社会のなかで、この二つの本質を疎外されてしまっている。人間は疎外された人間の本質を回復するものとして「豊かさ」という理念をつくり出す。

「豊かさ」には二つの内容がある。一つは自由な意識を支える安定した経済的な豊かさがあり、もう一つは「安心と安全と信頼できる人間関係」という社会的な豊かさである。安定した経済的豊かさは自由な意識の基盤であり、社会的な豊かさは共同社会性から生まれている。

「万引き家族」は安定した経済と豊かさには目をつぶり、家族としての絆をつうじて社会的豊かさを味わっている。「万引き家族」は家族という場において「安心と安全の信頼できる人間関係」を築いている。

資本主義的搾取は「搾取と貧困」により、個人の自由な意識を否定し、「信頼できる人間関係」を破壊して、人間疎外をもたらすから、人間疎外から人間の本質を回復する人間解放の階級闘争が求められるのです。