「一粒の麦」NO228 会長エッセー 雪の話

投稿日: 2015/01/20 9:33:59

雪の季節になると、それを知らせるように「雪ん子(雪虫)」が飛ぶ。小さい羽虫が、粉雪か綿のようなものを背負って飛ぶ姿をご覧になったことがあると思う。優しくすくい取るようにすれば、手のひらに乗せることもできる。それくらい緩やかな飛び方をする。遠目には雪が降っているかと思えるような愛らしい虫だ。

雪の使者に敬意を払う。決してひどい扱いはしない。そうか、まもなく雪の季節だね。「雪ん子」を見たら雪を迎える心構えをする。数日すると初雪が降りてくる。

雪はさまざまな姿を見せる。

風のない雪の夜はことさら静かだ。雪が全てを眠らせ、音を消している。三好達治の詩は幻想的でひそやかな雪国の情景を表している。

太郎を眠らせ 太郎の屋根に 雪ふりつむ

次郎を眠らせ 次郎の屋根に 雪ふりつむ

この詩はそれぞれの日常と重ね合わせて、自分なりの思い出や情景を思い浮かべさせるであろう。雪合戦や相撲などで遊び疲れた太郎と次郎、それぞれの家で暖かい夜具にくるまれて眠っている。家族は夜なべをしているが、子どもの安らかな寝息がみんなを幸せにする。雪は、冷たさゆえの暖かさを作り出す。

吹雪は心を凍らせる。

夜の吹雪は、窓を揺らし木々をならしヒューヒューと叫ぶ。雪は横に吹きすさび、空に舞いもどる。鳥や獣はどこで息をひそめているのだろうか?雪は地面に落ちないかのように見えるが、それでも朝になると一面真っ白になっている。

昼の吹雪は刃物だ。強い風は息を詰まらせる。頬にあたる雪は、まるでつぶてだ。首筋に入り込むと身が縮む。頭を吹雪にむけて一歩いっぽ歩く。ああ、早く家に帰りたい。ようやく家にたどり着くと暖かいコタツ、そして温かい風呂に入る。魔物からのがれたような安堵が広がる。

吹雪のない穏やかな日は、雪は子ども達にとって愉快な友達になる。組に分かれての雪合戦、竹を炙って作ったにわかスキー。雪を踏み固めて土俵をつくり相撲に興じる。いつか頭から湯気があがる。雪はいかようにも楽しませ子どもの心身を鍛える。

雪の季節が終わり早春の陽光が照りはじめると、道ばたや稜線の残雪はまばゆくきらめく。雪解けの水で川の水嵩がまし、川辺ではネコヤナギが殻を脱ぎ銀色に輝く。雪ん子からネコヤナギまでが雪の季節だ。

冷たく辛いことがある分だけ温もりのかけがえなさを知る。堪え忍ぶ心と同時に、一歩いっぽ前にむかう心を育む。

さて、人の世も枯れ野から草(民)萌ゆる季節か。大地を踏みしめてまいろうか。