歴史学者・阿部謹也先生が語る小樽商大

  • 歴史学者の阿部謹也先生(元一橋大学長)は、一橋大学大学院終了後、昭和39年に小樽商科 大学に赴任され歴史学を担当されました。
  • 阿部先生の著書『北の街にて』は、当時の小樽商科大学での生活、山岳部との交流、小樽の町などが幅広く記されていますが、ここでは特に印象的な一場面を紹介いたします。

阿部謹也著『北の街にて』より

2、3年後に札幌の大学に非常勤講師として勤めることになり、週に1回だけ札幌へ出て行くことになった。 (中略)

小樽-札幌間は当時45分以上かかった。しかし列車の窓から見える張碓や銭函の海岸線や石狩湾の景色にはいつみてもあきない風情があった。

とくに帰りの列車から小樽の水族館が見え始めるときの光景が私はすきであった。雪の日などは海と山の間にほのかに街のあかりが見えると帰ってきたのだという気持ちが深まるのである。

大げさだと思う人がいるからもしれない。しかし私はいまでも小樽に帰るとき、そのような思いを強くしている。

ひとたび住んだ人が何処にいこうとも常にあそここそが私の故郷だという思いを抱かせる街がある。小樽はそういう街である。

今でも小樽商科大学に寄ると何人かの職員は「おかえりなさい」という。この街の人々もひとたび住んだ者はいつまでも自分の街の住人だと考えているように見えるのである。

『北の街にて』

(2006年 洋泉社新書 56~57ページ)