第103回

2020年 緑丘ビジネス塾 WEB講演会

ダイキン工業 十河社長が講演

疾風に勁草を知る」 十河社長 コロナ禍でのグルーバル経営戦略を語る


緑丘会は10月31日(土)、東京池袋の緑丘会館で「緑丘ビジネス塾」を開催。今回はダイキン工業(株)代表取締役社長・十河政則先輩(昭48卒)を招き、全国各地の同窓生70名がオンライン会議等で参加しました。仙台緑丘会からは、橋本会長、尾形副会長(緑丘会理事)が出席しました。

十河社長が経営の指揮を執られるダイキン工業(株)は、アジア・北米・欧州など世界150か国で事業展開する空調製品のグルーバル・トップメーカーです。今回のコロナ禍で世界経済は大打撃を受けており、各国の感染や経済状況、ライバル社との競業状況も一様ではありません。こうした未曾有の環境に直面し、十河社長は「先行きが読めない中でも成り行きに任せてはいけない。正確に各国の情報を把握・分析し、ステークホルダーに事業目標を明確に示してくことが経営者の責任である」と冒頭に強調されました。

このコロナ禍の逆風の下、同社では、世界各地の生産拠点で中国依存のサプライチェーンの見直しや固定費削減を急いでいます。一方で、空気清浄機の需要が各国で急増しており、生産増強と採算確保に向けたシフトを速やかに決断されたとのことです。加えてAI人材の確保、業界のM&Aも広がっており、平時とは異なった対応が求められています。十河社社長は「平時は組織横断の意思疎通が大事だが、緊急時はトップマターの事案が多くなってくる。トップ自らが関与して、迅速に経営判断することが必要。その使い分けが肝要だ」。逆風をチャンスに活かすため、企業体質の改革、人材と新たな研究への投資などを進め、経営スピードを高める戦略を多角的に展開されています。

十河社長は商大卒業後、ダイキン工業では人事畑で社会人キャリアをスタートされました。最初は人事部門の官僚的な雰囲気に馴染めず、3年目の時に退社して北海道に帰ることも考えました。郷里のお母さんに連絡したところ「あなたが戻るところはないよ」と一蹴。その時に出会ったのが、人事改革のために異動されてきた上司、いまの同社の井上会長でした。その出会いで十河社長は鍛えられ、多くの学びを得て、会社人生が大きく変わります。「私がいまあるのは様々な人との出会いのお陰。ダイヤはダイヤでしか磨けないのと同じく、人は人でしか磨けないと思う」と述懐され、結局のところ経営力やグループ力は「人の力、経営は人を動かす力」であると言葉を強められました。

「従来のことをただ延長していても成長はない。最初の一歩は小さくてもいい。変革に挑戦する勇気と行動を持つことだと思う。それには何歳になっても謙虚に学ぶ姿勢がとても大切。社長になった今も学ぶことだらけだ。」

「どの企業も人が大事だと言っている。でも、理屈や理論だけは人は動かない。会社の方向性を理解・共有してもらい、一人ひとりに意欲をもってもらうため、いまも労使交渉には時間をかけている。人に成長チャンスを与えるのは経営者の役割。そのためには会社の成長を社員に確約する強い覚悟が経営者には必要だ」。

十河社長は、2011年に代表取締役社長に就任されました。経営者の気構として「情熱と気迫、胆力と執念」を挙げられます。「疾風に勁草を知ると言われるとおり、経営を引き受けたからには修羅場も覚悟してきた。世界各地の投資家向け説明会に出席するが、機関投資家たちは、社長がどのような人物なのか、元気かどうか、社長の体全体からにじみ出てくる気迫といったものを常に見ている。健康管理は責務だ。社長というものは、プライベートがない孤独な存在」と語られました。

時として何千億円のM&A案件の決断を迫られることもある中、十河社長は「経営判断を間違わないようにすることはもちろんだが、正解は神のみぞ知るのも事実。決断したことが200%、300%の成果になるよう努力する覚悟だと思う。形よりも実と本質。二流の戦略よりも一流の実行が重要」と言います。経営者としての「夢」は、「製造とメンテナンスのトータル部門でのグローバルNO.1企業への成長」「ダイキンに入社したい、一緒に仕事したい、投資したいと思っていだくようなより良い会社にすること」を挙げられました。

また、小樽での学生時代に触れられ、「丁度大学紛争の最中であり、一時期、母校も封鎖された。授業はレポート中心で講義を受ける状況でなかった。」「一方で小樽の町では様々な人々と出会った。人付き合いの中で、相手の状況や流れを読み、先を読むことが大切だと知った。人は理屈や表面どおりにはいかない存在だとも思った。そんな学生生活だったが、知的なものを求めて小樽図書館にも通った。人は何かをきっかけに変わるものだ」と振り返られました。

講演後、若手の緑丘同窓生から「経営戦略」「人材確保」などに多くの質問が寄せられ、十河社長には一つひとつ丁寧にご回答いただきました。最後に「商大生をはじめ、ぜひダイキン工業に訪問してほしい。これからも緑丘会で同窓生の皆さんと交流できる機会を是非楽しみしている。」と話され、出席者から盛大な拍手が送られました。


 ダイキン工業 タイ工場(タイ・アマタナコーン工業団地)

【小樽緑丘余話 一握の砂なれど】

ダイキン工業(株)の社長は、母校・小樽商科大の十河政則先輩だ。直接お会いしたことはないが、新聞や経済雑誌でお顔は知っている。商大を回顧された記事に深い母校愛を感じた。

2年前の2018年2月、私は勤務先でタイとベトナムの海外視察事務局を命じられた。タイでは、証券会社を通じてダイキン工業が現地工場の視察を受入れてくれることになった。

私はこんなチャンスはない、思い切って十河社長へお手紙を書いた。自分が商大卒で緑丘会の役員をしていること、現地視察を受入れてくださった御礼を綴った。

でも投函する直前で迷った。グローバル企業トップで多忙すぎる先輩に、後輩だといって突然に手紙を差し上げてよいものかと・・・。最後は、わが緑丘の絆を信じて、思い切って封書をポストに投函した。

それから1週間後、なんと十河先輩からご丁寧なご返信が封書で届いた。仙台で商大の後輩が活躍していること、そして自社工場を視察してくれることを嬉しく思うとあった。

投函して良かった。文面から伝わる十河先輩のお人柄に瞬く間に惹かれてしまった。わが母校は、なんと素晴らしいのだろう、手紙を読みながら深い感動に捉えられた。

さてタイ工場では工場長や幹部の方々に実に丁重に出迎えいただいた。冒頭、工場長から

「尾形さんはいらっしゃいますか?。」

「社長の十河からくれぐれもよろしくと伝言を預かっています。」

「社長命令で、しっかりご案内するよう本社から指示がきています」

との思いがけないご挨拶があった。

同行した視察メンバーたちが明らかに驚いている。隣の代表役員も「君はなぜ十河社長と知り合いなのだ!!」と聞いてくる。「小樽の大学の先輩なんです」と謙虚を装いながらさらりと答えてみる。

日本を代表するグローバル企業のトップが、手紙1通で後輩に手を差し伸べてくれる。これこそが小さな学園・小樽商科大学に流れる家族意識なのだと思った。

青空広がるタイの地で、わが緑丘の結束力を実感した一日。今度はぜひ緑丘会で十河先輩にお会いしたいと長く思っていた。それが本日、WEB講演会の形でようやく実現できた。

巷にあふれるビジネス書の何十冊分を越える知見を一気に得た講演会であった。商大のご縁に感謝。

(平元卒 尾形毅)