企業と働く人との経済的な関係については、ここまで意識的に触れないできた。経済的な報酬は積極的な動機づけの主たる要因ではないからである。ただし、経済的な報酬についての不満は、仕事に対する阻害要因となる。
主たる問題は賃金の高低にあるのではない。本当の問題の一つは、賃金をコストとしてとらえてその柔軟性を必要とする企業側と、賃金を所得としてとらえてその安定を望む従業員側との対立である。この対立の解決策としては「雇用賃金プラン」しかない。
絶対的な雇用保障という要求、すなわち「年間賃金保障」の要求は、不死の約束を要求するように愚かである。そのような約束は無価値以下である。なぜならば、働く人が最も保障を必要とする不況時には反古にされるしかないからである。
必要なのは保険証書である。そしてそれならば与えることが可能である。ほとんどあらゆる企業が、過去の経験に照らし、向こう一か年に起こりうる最悪の余剰雇用を見通せる。
人のやる気を引き出す、モチベーションを向上させる要因は何かということについて、ハーズバーグとひとが提唱した「動機づけ要因、衛生要因」という二要因理論があります。
動機づけ要因はその要因が向上するとモチベーションが向上するもの、衛生要因はその要因が低下するとモチベーションを低下させるのに、向上してもモチベーションを上げる要因にはならないものです。
たとえば、衛生要因としては「組織の運営方針」「管理監督」「労働条件」「報酬」などがあり、動機づけ要因としては「達成感」「組織からの承認」「責任」などが上げられます。
報酬に関してはドラッカーもハーズバーグも同じように衛生要因だとしていることになります。
どのような報酬のルールとするのが良いのかについて、ドラッカーは上記のように「雇用賃金プラン」しかないと言っていますが、対立する概念が「年間賃金保障」というなの雇用保障ですから、会社の状況によって雇用が多少の影響を受けることはやむを得ないことだということです。
「年間総労働時間を1/3削減することが必要となった場合、80%の従業員に80%の労働時間を保障することに等しい。そのような見込みがあれば、事実上生活の保障は行われたことになる。その結果、従業員だけではなく企業もリスクを限定できる。」という記述があります。
これは33%の雇用削減になるよりは20%の雇用削減で済ませるようなルールにしておくことで、「完全雇用」を打ち出して会社も従業員も共倒れしてしまうリスクを低減できると考えたのだと思います。
第19章ではIBMによる完全雇用保障の例を持ち出していましたが、すべての企業がまねできるものではないということを理解して、それよりも現実的な方法を提案してくれているのだと思います。
2013/9/29